「高エネルギー加速器研究機構」に行ってきた 超難解だけど粒子加速器を知りたい人、必読。

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こちらはTSUKUBAの外観

ちなみに、北東方向にある建物には「TSUKUBA」という名前が付けられている。その向こうには確かに筑波山がみえる。さすが日本百名山の勇姿である。

北西方向にある建物が「NIKKO」。その向こうには確かに勇壮な華厳の滝がみえる・・・・それは嘘です。でも、方角的には正しい。南東にある建物が「OHO」。どういう風に読めばいいのかちょっと戸惑うが、漢字にすると「大穂」、つまり読み方は「おおほ」だ。大穂は、このあたりの地名だそうだ。

さて、くだんのFUJIだが、これは新しい建物というわけではない。建物もこれから向かうSuperKEKBの設置されている回廊も、1980年代に進められたトリスタン実験計画に合わせて作られたものだ。あの、右折すればトリスタンという標識は、その頃の名残りだ。

次世代の電子・陽電子衝突加速器

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右に見える支線は周回路を走る電子や陽電子を供給する入射路

トリスタンも加速器の一種。それが1990年代にKEKBへと生まれ変わり、そして今、2010年に役目を終えたKEKBが、SuperKEKBへと生まれ変わろうとしている。

加速されて衝突するのは電子と陽電子。電子とは、中学校の理科で習った、あの電子である。陽電子は、中学校で習った陽子とは異なり、電子の反粒子のことを指す。ちょっと難しいのだが、反粒子というのは、質量とスピンは同じで、電荷だけが反対の粒子のことをいう。電子の電荷はマイナスのため、陽電子とはつまり、「電荷がプラスになっている電子」である。

このふたつ、つまり電子の塊と陽電子の塊を加速させて、その両方をぶつけると、火花がバチッと閃くように、別の粒子が誕生する。この粒子たちを作るために加速器があるのだ。

加速するために、電子の塊も陽電子の塊も、3キロ近くの走路を、なんと10億周走行する。ということは約30億キロ。地球から土星までがざっと30億キロである。長旅をするにも程があるというものだ。

その旅路が、地下4階まで下りてきたボクの目の前にある。電子用のトラックと陽電子用のトラックが二重になって並んでいる。走路は空洞、要するに真空パイプだ。この中を、電子と陽電子はそれぞれ逆向きに走り、衝突するために作られた場所で衝突する。全長3キロのパイプには、仰々しい装置がいくつも備え付けられている。

3種類の仰々しい装置

仰々しい装置は大きく3分類できる。ひとつは「電界を加える装置」。もうひとつは「磁界を加える装置」。そしてもうひとつは「空洞を真空に保つための装置」である。

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ARES常伝導加速空洞

電界を加えるのは、マックススピードまで加速させるためだ。衝突時には、電子も陽電子もほぼ光速まで加速されている。マラソンにたとえるならば、電子にも陽電子にも疲労を感じさせず、むしろゴールに向けてスピードアップできるよう、道ばたのスペシャルドリンク用給水所の役割を果たすのが、電界を加える装置なのだ。

その代表的存在が、ARES常伝導加速空洞。ウィスキー蒸留所で見るような、鋼のボディが胴めっきされた外観で、KEK独自のものだという。

これで加速させるのかあ。いまひとつ実感がわかない。案内をしてくれるスエツグさんの説明を聞く。ふむふむ。なるほど、これはつまり、「巨大なコンデンサ」なのである。

コンデンサとは、電気のエネルギーを溜めたり出したりする器だ。その器に、電子レンジのようなもので発生させたエネルギーを蓄えておいて、電子や陽電子の塊が傍を通るときにひょいっと渡し、加速に使ってもらうのだ。

電界を加えるのは、マックススピードまで加速させるため。ここまでは、よござんすか? では次に行きます。

次ページ磁界を加えるのはなぜか?
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