「高エネルギー加速器研究機構」に行ってきた 超難解だけど粒子加速器を知りたい人、必読。

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お手製です

その外側に、(2)シリコンバーテックス検出器(SVD)がある。これは、Belleから使われていたものだが、大型化した新しいものが、PXDと同じ目的で設置される。

SVDは、シリコンのセンサーと専門の回路(ASIC)を、フレキシブル基板に取り付けたものなのだが、これはKEKの方々が手ずから作るのだという。既製品ではないのだ。

なお、Belleで使われていたSVDは、そのうちの半身が、国立科学博物館に展示されることになるらしい。残りの半身はというと、今はなんとも無防備な形で倉庫に置かれている。ぜひ大事に保管されて欲しい。

運動量がわかれば重さがわかる

SVDの外側に、(3)ガス放射線検出器。これは、半径約1.1メートルの円筒の中に、5万6576本もの金属ワイヤーを数ミリ間隔で張り巡らせたものだ。使うときには、ワイヤーには電界をかけ、円筒の中は不活性ガスで満たす。すると、荷電粒子が通ったところだけガスがイオン化し、それを、近くのワイヤーが電気信号としてキャッチする。

つまり、電気信号を見ていれば、どこを粒子が通ったかがわかる。

この空間には、強力な磁場もかかっている。磁場がかかると、荷電粒子は曲がる。このときの曲がり具合は、その粒子の運動量で決まる。運動量がわかると重さがわかるので、通った粒子が何なのかのあたりがつく。

その外側に、(4)タイム・オブ・プログレス・カウンター(TOP)と(5)エアロゲル・リッチ・カウンター(ARICH)。このふたつの役割は、B中間子崩壊時に発生するπ中間子とK中間子を区別することだ。このふたつはよく似ていて、誤認されることも多い。

π中間子もK中間子も、物質の中を通るときにはチェレンコフ光という光を放つ。同じ種類の光だが、πとKとではちょっとだけ違う光を放つ。その違いを見るのが、このふたつのカウンターなのだ。

TOPは主に石英の板で、ARICHは主にエアロゲル(固めた寒天に激似)で作られる。

その外側に、(5)超伝導ソレノイド電磁石。これは、(3)の検出器内部に、協力な磁場を発生させるためのものだ。稼働時にはマイナス268度まで冷やされ、超伝導状態にして、大電流を流し、大磁界を発生させる。書いているだけで、大変な世界と想像できる。

さらにその外側に、(6)電磁カロリメーター。主にタリウムをちょっと入れたヨウ化セシウムで作られている。電子や光子はその中を通るとエネルギー量に応じた光を放出することから、光ったところに電子や光子が存在したことがわかる。

さらにさらにその外側に、(7)ミュー粒子とK長中間子の検出器(KLM)。これがあるから、Belle IIはこんなにでかくなるのだ。

ミュー粒子とK長中間子の検出が最後の最後になっているのには、ミュー粒子はものを通り抜けやすいのと、K長中間子は電気的に中性で、これまでの電気的な検出器にはひっかからないからという合理的理由がある。

この検出器は、衝突点から見ると放射状に配置される大型の板(板の素材は場所によってガラスではさんだガスだったりと様々)で構成される。今、クレーンで吊られているのはそのうちの1枚だ。

螺旋階段を地下4階まで下りる。これで、Belle IIと同じ高さまで下りてきたことになる。見上げるとでかい。なぜ小さなものを測るのにこんな大きなものをという疑問が再び湧いてくる。

それは効率を重視するからだ。小さなものがいつまでも存在し続けてくれれば、まずあれを測って次にこれを測ってと順序立てて計測できるが、敵は短時間で消えてしまう。だから存在する間に、いっぺんにデータを採っておく。

ピーク時電力は60メガワット

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見上げるとますますデカイ

Belle IIの周囲には、これから組み上げられるのか、さまざまな機材が置かれている。そしてその多くに、名字と内線電話番号が書かれた紙が貼られている。これだけ多くの部品があれば、管理者も多いだろう。お金もかかりそうだ。

「それでも、検出器にかかる予算は加速器にかかる予算とを比べると、1対10くらい。ずっと少ない」

ちなみに、SuperKEKB+Belle IIを稼働するには、かなりの電力量が必要だ。ピーク時の消費電力は60メガワットに達する。原発1基で1ギガワットと言われることを考えると、その17分の1だから結構な電力ともいえるが、そうでもないなという気もする。

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