さて、次の見学先はTSUKUBAである。加速器で加速させて凝縮させた電子と陽電子の塊を、ガツンとぶつける現場が、TSUKUBAにあるのだ。回廊をぐるっと1.5キロほど歩けばたどり着けるのだが、昼食をいただいて、その後、車で移動することにした。
食堂までの移動の途中で、編集者と理想のメニューを妄想合戦してみた。加速器オムライス、加速器カレー、加速器ラーメン。なんでも加速器である。皿も丼も円形なんだから、盛り付け次第で意外と悪くないのではと思っていたが、メニューにはそのような文字はなく至ってまじめ。ひとつのネタとして、検討してもいいかもしれない。
ちょうどお昼時だったので、食堂は客で埋まっていた。そこで、ちょっと離れたところにある喫茶店に入った。品書きを確かめてカツカレーを食すことにした。版元の編集者は鯵フライ定食。鯵は2枚もついており、これで500円とはお買い得だ!
食事をしながら、頂戴した資料を見て予習と復習をしてみた。SuperKEKBをぐるっと廻る電子と陽電子はどこから来るのだろうか(答え:ライナックという全長600メートルの線形加速器から発射される)。いったいどこでぶつかるのか(答え:SuperKEKBに接続されるBelle IIという名の測定器の内部にある、その名も「衝突点」という場所)などを確認する。
壁には2枚の色紙
カツカレー、実に美味であった。午後の約束の時間まで少し余裕があったので、展示スペースをぶらぶらしてみた。
糸つむぎ器のようなものがある。池波正太郎からSF、そしてグリム童話の世界と今日は忙しい。見ると、例の陽電子の走路に巻くコイルを効率よく作るための装置だった。この装置もKEKお手製だという。
壁に色紙が貼ってある。
「広報室へ
素
小林誠」
その隣にもう一枚。
「φιλοσοφια
益川敏英」
2008年にノーベル物理学賞を受賞された、小林誠さんと益川敏英さんの、マジックペンによる揮毫だ。
長年KEKに務めていた小林さんは、現在は特別栄誉教授。小林さんが書いた「素」は素粒子の素だろう。益川さんのφιλοσοφιαは、Philosophia(哲学)だ。
なぜ電子と陽電子をぶつけているのか
そもそも、KEKではなぜ電子と陽電子をぶつけているのか。そこには、日本の物理学の栄光の歴史がある。日本初のノーベル賞受賞者である物理学者・湯川秀樹さんが存在を予言した粒子に「中間子」というものがある。
その中間子にもいろいろあり、そのうちのひとつに、B中間子というものがある。そしてこのB中間子は、B中間子と反B中間子とに分類できる。
どちらも普通にしていては存在せず、頑張って作り出しても短時間で崩壊し消え去るはかない運命にある。が、ちょっとだけ崩壊の仕方が違う。対称性が破れているのだ。「CP対称性の破れはクォークが6種類存在するから発生する」、小林さんと益川さんが唱えた理論である。この理論の正しさを実験によって裏付けたのが、ここKEKBなのだ。
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