近年、世界中で、幼児教育を政策的に推し進める動きが盛んになってきている。EU(ヨーロッパ連合)では2000年代前半に、9割の子どもが幼児教育を受けられることを目標としている。アメリカでも、オバマ前大統領が4歳児向けの教育プログラムの推進を各州に促してきた。
日本では、2017年の衆議院議員総選挙で、自民党を含む各政党が幼児教育無償化をマニフェストに掲げていた。その後、経済財政諮問会議で「骨太の方針」に幼児教育の無償化が取り上げられ、閣議決定を経て2019年10月からの実施が見込まれている。
科学的研究が示す幼児教育の効果
幼児教育が世界中で推進されている背後には、経済学を含む、さまざまな学問領域での研究成果の蓄積がある。幼児教育は、IQ(知能指数)などの認知能力のみならず、意欲、忍耐力、協調性といった社会情緒的能力を改善することを通じて、子どもと周囲の人々の人生に大きな影響を及ぼすことがこれまでの科学的研究で示されてきた。
教育は身近な問題であるため、誰もが一家言もっている。そうした個人的な経験や信念には耳を傾けるべきところが多いかもしれないが、それらが他の人、ましてや日本社会全体に当てはまるかどうかは定かではない。個人の経験できる範囲は、社会全体に比べて極めて小さいためだ。
社会全体に影響を及ぼすような政策の良し悪しを考えるためには、社会全体について知ることができるように、統計学の理論にもとづいてデータを集め、分析する必要がある。この記事では、そうした科学的な手法で幼児教育の効果を分析した国内外の研究を紹介しよう。
科学的に幼児教育の効果を分析するためには、「効果」とはそもそも何であるのかを明らかにしておかなければならない。科学的研究における、ある幼児教育プログラムの「効果」は、その教育プログラムに参加した場合と参加しなかった場合で、IQや社会情緒的能力などがどのように変化するかで測られる。
たとえば、「幼稚園通いがIQに与える効果」であれば、「幼稚園に通った場合のIQ」と「幼稚園に通わなかった場合のIQ」を比べる。幼稚園に通わなかった場合、保育園に預けられる子、日中を母親と過ごす子、祖父母と過ごす子とさまざまであるため、幼稚園通いの効果は子どもによって違いがある。
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