この対談では、気鋭の経済学者2人、東京大学の小島武仁氏と大阪大学の安田洋祐氏が、ノーベル経済学賞、近年の日米の経済学界、そして大学のあり方の相違について、縦横無尽に語った。全3回の最終回では、日米の経済学界事情をお届けする(第1回、第2回)。
マーケットデザイン分野といえば、スタンフォード
安田:ある分野の優秀な研究者が、アメリカの一部の大学に集中する傾向があります。例えば今、経済学のビジネスへの活用が進む中でとくに注目されているマーケットデザインの分野では、世界中の優秀な研究者をスタンフォードが集めている。
小島:ウィルソンやミルグロムの下で育っている学生は多いですね。ちなみに、ミルグロムや、やはりノーベル賞を受賞しているアルヴィン・ロス(2012年受賞)、ベント・ホルムストローム(2016年受賞)は、みんな学生の頃、ウィルソンの指導を受けていた門下生だったりもします。
ウィルソンは、めちゃくちゃいい人なんですよ。今も彼を中心に、学生を集めゲストスピーカーを招いてディスカッションをする集まりが、スタンフォードにはあります。
ミルグロムのほうも自分が見込んだ学生をよくRA(リサーチアシスタント)として雇って支援しています。さらに彼は、毎週1回夜に学生を集めて自宅で会合を開いている。1時間くらいの発表の後、みんなでディナーを食べながらあれこれ議論するっていう。こうした努力には本当に頭が下がります。
安田:こうした社交やネットワーキングを海外でうまくやれている日本人研究者は少ない印象ですね。研究で実績をあげる人は少なくないけれど、自分の仲間を増やしていくようなことができる人は少ない。スタンフォードにいた故・青木昌彦さんは例外的にそれがうまい人でしたね。小島さんと同じく40歳の時に日本に帰国した故・宇沢弘文さんも、シカゴの自宅に大学院生を招いて、泊りがけの研究会をやっていたという話があります。
小島:スタンフォードで僕はロスと一緒に、学生と交流するコーヒーアワーを設けていたんですが、教育とネットワーキング、みんなでガヤガヤ議論して、教員と学生がうまく混ざる場を作る努力って大事ですね。
ミルグロムもウィルソンも、彼ら自身が偉大な研究者ですが、学生を育てたり交流したりすることで、自分と周りの両方を盛り上げている感じがあります。