ミルグロムが65歳になったときに、大規模な誕生日記念イベントが開かれた話を第1回でしましたが、このときは2日かけて、誕生日パーティーと記念カンファレンスが開催された。日本人としてはミルグロムの教え子だった神取道宏さんが研究発表をしていました。
当日は、学生の頃にミルグロムの下で論文を書いた彼の学生たちが大勢参加して盛り上がっていて。ポールが自分の仲間を育ててきた歴史があり、それがこうして花開いているんだなと感じました。
安田:しかし、ミルグロムの弟子の神取さんのメインフィールドが繰り返しゲームっていうのも面白いですね。あれだけいろんな分野で基礎理論から応用分野まで論文を書いているミルグロムも、繰り返しゲーム分野ではそれほどたくさんの論文は書いていない。
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小島:自分自身がさまざまな研究に取り組みつつ、さらに多くの分野に対応できるのは、やはりミルグロムが天才だからなのでしょうね。
彼は、それまでほぼ素人だったはずのマッチング理論の分野でも、2005年にすごい論文を書いてしまった。ノーベル賞選考委員会が出した文書に取り上げられるくらいインパクトのある論文です。興味も知識も広く、とにかく頭がいい。食わず嫌いせず、何でも食べちゃう感じなんだと思います。
経済学は分野がどんどん細分化していて、多分野の論文をどしどし書くタイプの研究者は少なくなっています。昔は、ポール・サミュエルソンやケネス・アローのような万能選手型の偉大な研究者がいた。その系譜を継ぐのがミルグロムなのかもしれない。
学問が成熟するとオールラウンダーは少なくなる
安田:アメリカの西側なら間違いなくミルグロム、東側ならMITのダロン・アセモグルでしょうね。アセモグルはマクロ経済学寄りだけど、やはりカバーする範囲が尋常じゃなく広い。
学問が成熟してくるとオールラウンダーはなかなか出てこなくなるし、生き残りにくいというところはありそうです。その意味でも、やはりミルグロムは稀有な存在と言える。
小島:そういえば、2005年に安田さんも僕も学生として参加したサマースクールがありました。イスラエルで行われたマーケットデザインの。
今でこそ注目されるようになったけど、当時はまだ、マーケットデザインは若い学問分野でした。大学での授業は、ミルグロムとロスが2002年頃に行ったのがおそらく最初です。