安田:毎年夏に、イスラエルのヘブライ大学がホストになって、経済理論の面白そうなトピックについて2週間ぐらい集中的に学ぶサマースクールが実施されているんですよね。僕と小島さんは当時アメリカの学生だったけど、世界中の大学から総勢50人くらい PhD(博士)課程に在籍する学生が集まった。
小島:もともとはケネス・アローが始めて、彼が高齢になってからはエリック・マスキンが引き継いだという非常に伝統のあるイベントですね。その2005年のテーマがマーケットデザインで、ロスやミルグロムたちが講師だった。
研究者人生に影響を与えるイベント
安田:みっちりと講義を受けつつ、途中で死海ツアーに行ったりもして。街を歩いて印象的だったのは、遺跡ですね。歴史的なものが街中に何気なく存在しているんです。これは京都に近い感覚かもしれない。ちなみに、小島さんは、このサマースクールは自分で見つけて参加しましたか?
小島:僕は当時マーケットデザインに興味を持っていたのだけど、指導教官のアルヴィン・ロスが研究休暇だったので授業を受けられなくて。そんなときに、ちょうどこのサマースクールの話を聞いて参加したんです。
安田: 僕は指導教授だったパトリック・ボルトンに「洋祐、イスラエルに行ったことはあるか? 一度行っておくといいぞ」と言われて、マーケットデザインの中身もほとんど知らずに軽い気持ちで参加した(笑)。でも、いま思えば、その後の研究人生にも影響を与えたイベントでした。世界中から活きのいい講師と学生を集めて2週間缶詰にするというのは良い取り組みですね。
小島:その後、一緒に研究することになった友達と出会うなど、世界各地の研究者とネットワークを構築する機会になった。当時僕はまだ、マーケットデザイン分野では1本も論文を書いていなかったのですが、分野を切り替えるターニングポイントにもなったし、自分にとってはかなりのビッグイベントでした。
安田:このイベントがなかったら、今のマッチング理論の大家としての小島武仁はいなかったかもしれない!
小島:あはは、大家かどうかはともかく、あのイベントは僕の研究人生にとって決定的に重要でした。この秋に日本に帰国するのを機に同僚たちと東京大学マーケットデザインセンターという組織を作ったのですが、そこでもRA(リサーチアシスタント)の学生さんたちと勉強会を開いたりしています。僕や安田さんが若い頃に受けたような刺激を学生さんに与えられたらとてもうれしい。
ちなみに、センターは東大内に作った研究所ですが、純アカデミックな研究だけではなく社会実装も重要なミッションに掲げている点は、安田さんたちの会社とも少し似ているかもしれません。さっそく自治体や企業との共同研究や実装プロジェクトを立ち上げました。ウィルソンやミルグロムたちが作り上げてきた経済学の社会実装という文化を日本でも根付かせていきたいですね。
(構成:山本舞衣)
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