
半世紀前に書かれていた重要な論文が、現実に応用されるようになったのは何十年も経ってからということも多いようです(写真:metamorworks/PIXTA)
2020年は経済学の現実への応用が日本でも大きく前進した。ノーベル経済学賞を受賞したポール・ミルグロム(主著に『オークション 理論とデザイン』)とロバート・ウィルソンの研究や、彼らが設計したアメリカの電波オークションの仕組みも大いに注目を集めている。経済学の現実への影響力は今後ますます強まるだろう。
この対談では、今年アメリカスタンフォード大学から東京大学に移籍し、東京大学マーケットデザインセンターのセンター長に就任した小島武仁氏と、「経済学のビジネス活用」を促進するEconomics Design Inc. を創業メンバーの1人として立ち上げた大阪大学の安田洋祐氏が、ノーベル経済学賞、近年の日米の経済学界や大学のあり方の相違について、縦横無尽に語った。全3回でお届けする。
ホームラン級の論文や、新分野への貢献
安田:今年のノーベル経済学賞は、スタンフォード大学のポール・ミルグロム氏と、ロバート・ウィルソン氏(以下、敬称略)がオークション理論で受賞しました。
とくに注目されているのはミルグロムで、オークション理論については、メディアで多く紹介されたし、『オークション 理論とデザイン』をはじめ、彼の本は日本でも翻訳されている。さらに、ミルグロムはほかの分野でもホームラン級の論文を書いたり、新しい分野を打ち立てたりしているんですよね。
小島:僕はスタンフォード大学でミルグロムと同僚だったのですが、いくつか印象的なエピソードがあります。その1つが、僕に子どもが生まれた頃のこと。時間もないし、生産性も下がってしまって悩んでいたのですが、「自分も子どもが小さい頃は大変で、ちょっと論文の書き方を変えたんだ」と話してくれた。
どういうことかというと、「それまでの分野で論文を書くのが大変になったから、ほかのことを考えてそっちの分野の論文を書いてみたんだ」って。改めて見てみたら、確かにミルグロムが新しい分野ですごい論文を書いている時期が子どもの成長と完全に対応していて。
安田:わが子の成長に合わせて新分野に進出したということですね。それはすごい。ミルグロムは論文の数が多いんですよね。
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