小島:ロスがよく言うのは、「研究は短距離走じゃなく、マラソンだ」ということです。僕や安田さんが大学院にいた頃は、オークションもマッチングも研究し尽くされ、終わった分野と思われていた。でも、その現実への応用可能性はむしろ2000年以降に光を浴びた。
安田:アカデミアの外から見ると不思議に思われるんじゃないかと思います。だって、半世紀前に重要な論文がすでに書かれていたのに、それがすぐに現実に生かされるのではなく、現実に応用されるようになったのは何十年も経ってからのこと。マッチングなんて、1960年代の論文の中身が、ほぼそのまま使われているんですから。
ちなみに、ウィルソンはずっとビジネススクールに在籍して現実的な問題に取り組んできたし、現実志向の研究をしてきた。60年代当時、オークション分野はそれほど花形分野ではなかったけれども一人でコツコツ継続して論文を書いていた。さらに、定期的に大学院生を集めて、最先端の研究論文を自ら印刷して勉強会を開き続けていた。
小島:伝説的な勉強会ですね。今も、ゲストスピーカーを招く形式ではありますが、その勉強会は続いています。当時は今と比べて情報が少なかったはず。そんな中で、大学院生に自分が選んだ最新の情報を紹介するという、研究者としても教育者としてもすごいことをやっていたと。
彼は非常に慕われていて、今でもスタンフォードにはウィルソンを指導教官にしている学生がいたりします。
──高齢でも学生の研究指導はできるものなのでしょうか。
小島:指導はとても大変ですよ。あの高齢でよくやるなと思います。でも、ウィルソンは学生が好きだから惜しみなくやっているんだろうと思います。学生の話によると、すごく話しやすい指導教官だそうです。
安田:一方のミルグロムは迫力のあるタイプ。初対面で「ヘイ、ポール!」なんて気軽に声を掛けられる雰囲気ではない感じ(笑)。
小島:確かに、結構ズバズバ言うタイプだから怖がられているところはあるかもしれません。ただ、「この学生はいいな」と思うとすごくサポーティブになる。どちらかというと分け隔てない感じのウィルソンとは、この点が違うかもしれません。どちらも学生からの支持はものすごく高いです。
安田:教え子への接し方もミルグロムとウィルソンで違うというのは面白いですね。
トップ研究者の中のトップ
小島:ただ、ウィルソンの研究への取り組み方もやはり普通じゃありません。学生指導に関するエピソードだけ聞くと優しい楽しいおじいちゃんみたいに思えてくるかもしれないけど。
数年前に、ウィルソンのいるスタンフォードビジネススクールで、エコノメトリカという経済理論分野の超一流論文誌に誰が直近の数年でいちばん多く論文を採用されているのかをカウントした人がいた。すると、当時70歳を超えたウィルソンが最多だったらしい。もちろん彼のいる職場はトップ研究者揃いですから、そこで一番というのは本当にすごい。
──現在、ミルグロムは70代、ウィルソンは80代ですね。高齢の研究者が現役で研究を行い論文を書くのが、アメリカでは普通なのでしょうか。
小島:人によるところが大きいですね。ただ、ミルグロムとウィルソンがノーベル賞を受賞したのはやはり伊達じゃない。彼らは、特別な人たちだなと思います。テニュア、つまり終身在職権を取った後、気が抜けてしまってこれからはラクしよう! というふうになる人もいます。アメリカには定年がないのですが、それでも70歳くらいになると自ら辞めちゃう人もいっぱいいます。
ただ、本人がやりたければ70代になっても、いわゆる競争、学者の競争社会にいられる仕組みにはなっている。本人次第という感じです。(2回目に続く)
(構成:山本舞衣)
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