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〈インタビュー〉金原ひとみさん「性加害の告発」を主題に長編小説、「個人の中に抱えきれない痛みは社会の問題として考えていくべき」

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金原ひとみ
金原ひとみさん(撮影:橋本篤)

特集「組織が助長するセクハラ加害」の他の記事を読む

「彼は就職の相談に乗るという圧倒的優位な立場で私を口説きました。作家になるという夢につけ込み、まともな社会的振る舞いを知らない、世間知らずな若者を搾取しました」――。
文芸誌の元編集長からかつて性的に搾取されていたという女性の告発を軸に、性加害や性的搾取、セクハラ問題に鋭く切り込んだ金原ひとみさんの最新長編小説『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』。文芸誌『文學界』で2022年9月号から約2年にわたって連載され、今年4月に刊行された。
告発された元編集長の木戸悠介、告発した女性から相談される小説家の長岡友梨奈、大学で起きた性加害事件をきっかけに引きこもる長岡の娘・安住伽耶、マッチングアプリで女性を漁る木戸の部下・五松武夫など、10代から50代の男女8人の語りによって、急激に変化し続ける現代社会が鮮明に写し出されている。
会社組織がセクハラ加害を助長する実態を報じる本特集記事の一環として、『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』著者の金原さんに、作品着想の背景をはじめ性加害やハラスメントの告発が相次ぐ社会への思いを聞いた。
【配信中の特集記事の一覧】
東映「セクハラ訴訟」は第三者調査を会社が黙殺
ジャフコ「全社集会でセクハラ加害者が謝罪」の愚

――性加害や性的搾取の問題に正面から切り込もうと考えたのはなぜでしょうか。

性加害の告発について、ずっと考えていたところがありました。多くの人の告発文を目にする中で、私自身が、個人的な人間関係や女性として生きてきた間に受けてきた傷や押し込めてきたものが、存在感を増してきました。

「あれは加害だったんだ」「もう消せない罪なんだ」と実感して、堪えがたいものになっていったんです。これは小説として書かなければならないとずっと思っていました。

今のこの段階で書けるものだけでいいから形にしないことには、自分も先に進めなくなってしまうという危機感や、自分の子供が大きくなっていく中で、いい加減自分の中での認識を形にしたいという焦りもありました。

――その時はわからなくて後になって傷つけられたと理解することもある。

今の社会に適応していこうとする力が正常性バイアスのように、「これも普通のことなんだ」「自分が受け入れるべきことなんだ」と認識させてしまうところがあると思うんです。

でも社会も人も変わっていき、自分が感じた違和感は許すべきものではなかったんだと気づく。社会の構造的な問題が見えにくくさせていた側面があるのではないでしょうか。

この数年で物差しは永遠に変化していくのだと実感しました。作品の中でも「10年後には今の正しさは間違いになっているだろう」と書いています。でもだからといって考え続けること、認識をアップデートしていくことを止めてはならないんです。

二項対立で捉えていては変わらない

――本作は性加害を受けた被害者側の視点だけでなく、性的搾取を告発された木戸、性暴力の加害者としてSNSで晒される五松など、加害者側の視点からも書かれています。

性加害や性的搾取は加害者の問題でもありますが、もっと大きな意味で捉えないといけません。社会全体が変化していかないと何も変わらないので。すごくかわいそうな人がいて、悪者を糾弾してみんなでやっつけて終わりという二項対立には絶対にしたくありませんでした。

今何が起きているのか、どういう思想と思想がぶつかり合って、どういう変化が起きて、これから自分たちはどこに向かおうとしているのかということを、俯瞰して体系的に見えるようにしたいと思ったときに、加害者側の視点はマストでした。

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