子どもが「問題児」になりにくい保育の神通力 幼児教育の経済学が示唆する可能性とは?

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最近の保育園の中には、幼稚園に劣らず教育熱心な園も多い。そうした保育園に通う子どもたちにとっては、「幼稚園に通った場合のIQ」と「幼稚園に通わなかった場合のIQ」にほとんど差がなく、測定された「幼稚園通いのIQに与える効果」はゼロとなる。

逆に、幼稚園に通わず、子どもにあまりかまわないような親や祖父母と日中過ごしている子は、「幼稚園に通った場合のIQ」と「幼稚園に通わなかった場合のIQ」の差が大きく、測定された「幼稚園通いのIQに与える効果」は大きなものとなる。

このように、幼児教育の効果を測る際には、その教育プログラムに参加しなかった場合に子どもが置かれている状況を考慮しないと、その数字の意味するところを正しく解釈できない。

「幼児教育の経済学」は日本にとって有効か

幼児教育に関する研究といえば、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授らによる一連の研究が最も有名だ[1]。日本でも『幼児教育の経済学』と題した翻訳本が出て話題となった。

ペリー幼児教育プログラムでは、1962~1967年にかけて、アメリカの貧しい家庭に育つ子どもたち123人を、幼児教育プログラムに参加するグループと参加しないグループに無作為に振り分け、子どもたちが成長して40歳にいたるまで追跡調査が行われた。

今回の執筆者:山口慎太郎(やまぐち しんたろう)/東京大学経済学部准教授。1999年慶應義塾大学卒業。2006年、アメリカ・ウィスコンシン大学で経済学Ph.D.取得。カナダ・マクマスター大学助教授・准教授を経て、2017年より現職。労働市場を分析する「労働経済学」と、結婚・出産・子育てなどを研究対象とする「家族の経済学」が専門(写真:著者提供)

この調査から得られたデータを分析したヘックマン教授によると、ペリー幼児教育プログラムに参加した子どもは、その後の人生において、犯罪に関与する割合が低い一方、仕事に就いたり、高校を卒業できたりする割合が高いことが明らかになった。

これらすべての便益を経済的価値に換算すると、この幼児教育プログラムによる教育投資の社会収益率は年7~10%にも上ることになる[2]。株式市場から得られる平均的な利回りが年率5%程度であるから、この幼児教育プログラムは、かなりの高収益を生み出した「優良投資プロジェクト」だったといえる。

この研究結果は大きな社会的インパクトを持ち、オバマ政権での幼児教育政策を方向づけた。しかし、この研究結果を、現代の日本の幼稚園・保育園政策にはそのまま当てはめられない。その理由は大きく分けて2つある。

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