子どもが「問題児」になりにくい保育の神通力 幼児教育の経済学が示唆する可能性とは?

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数は少ないもの、いくつかの研究では子どもたちの社会情緒的能力に与える影響も評価している。こちらは国によって結果がやや異なり、デンマークでは影響なし[8]、スペイン[5]とドイツ[9]では、子どもたちの社会情緒的能力の改善や、問題行動の減少が報告されている。

学力面に与える影響と異なり、社会情緒的能力に与える影響は長期的に継続することを示す研究がある[10]。つまり、幼児教育が子どもの人生を変えているのは、学力ではなく社会情緒的能力を通じた影響であることが示唆されているのだ。

一部例外はある[11]。とはいえ、諸外国の研究は、おおむね幼児教育が学力面でも行動面でも子どもにとってプラスであることを示していると言えるだろう。

日本では子どもの問題行動が減った

筆者らは、厚生労働省21世紀出生児縦断調査から得られたデータを用いて、2〜3歳時点での保育園通いが、子どもの言語発達や攻撃性・多動性に及ぼす影響を評価した[12]。

分析の結果、保育園通いは家庭環境にかかわらず、子どもの言語発達を促進することがわかった。さらに、社会経済的に恵まれない家庭の子どもたちの行動面を改善し、攻撃性・多動性を減少させることが明らかになった。

なぜ保育園通いは、恵まれない家庭に育つ子どもの行動を改善するのだろうか。これまでのデータ分析の結果、筆者は以下のような仮説にたどり着いた。

子どもが保育園に通うことで、母親は仕事をするようになり、家計収入が増えるため、金銭面からくる不安が減る。加えて、四六時中の子育てから解放されるため、子育てストレスも減少する。

こうして母親の精神面が安定することで、母子関係が良好になり、子どもを叩いてしつけるといった好ましくない行動が減る。このように「しつけの質」が改善した結果、子どもの攻撃性・多動性を示す兆候や、問題行動が減る。

これまでの分析結果は、こうした仮説と整合的であるが、より詳しい検証が必要だろう。この研究に興味を持った読者は、筆者のブログ記事やホームページにある参考資料にも、ぜひ目を通してほしい。

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