1つ目の理由は、ペリープログラムは貧しい家庭の子どもたちを対象にしている点だ。貧しい家庭では、子どもにとって望ましい発達環境を用意するのは難しいため、ペリープログラムに参加した子どもたちと、参加しなかった子どもたちの間ではIQなどの発達面で大きな違いが出てきたと考えられる。
筆者は近頃、ヘックマン教授らの一連の研究をもって、幼児に英才教育をすすめるような話を耳にする。しかし、現代日本の平均的な家庭環境は、ペリープログラムの対象となった貧しい家庭の環境よりも優れていると考えられるため、ヘックマン教授の研究で報告されたような大きな効果は見られないだろう。
2つ目の理由は、ペリープログラムは特別に計画された極めて質の高いプログラムであり、それと同等の質のプログラムを全国的に展開するのはほぼ不可能であるという点だ。ペリープログラムの幼稚園教諭は四年制大学を卒業しており、平均的な幼稚園教諭より高学歴である。
また、一人の先生が見る子どもの数は5~6人と少なく、教室での授業に加え、1〜2週間に一度は家庭訪問を行い、両親に子育てについての助言もしている。
日本の平均的な保育園・幼稚園の環境は素晴らしいものの、さすがにここまで質の高い教育は行えていない。そのため、ペリープログラムで得られたほどの大きな成果を、日本の公的な幼児教育に期待するのは無理がある。
海外の「普通」の幼児教育の効果
日本の幼児教育政策を考えるうえで、より参考になる海外の研究は、その国の子どもたちの大多数が通うような「普通」の幼稚園・保育園の効果について分析したものである。そこに通う子どもたちは、貧しい家庭の子どもに限らないし、プログラムの質は国によって異なるものの、日本の平均的な幼稚園・保育園とかけ離れているわけでもない。
「普通」の幼児教育が子どもたちの学力に与える影響を評価した研究は、アルゼンチン[3]、ノルウェー[4]、スペイン[5]、ドイツ[6]、アメリカのジョージア州・オクラホマ州[7]などで行われてきた。
これらの研究によると、幼児教育は子どものテストの点数を上げ、その効果は長ければ中学校1年生になるあたりまで続くようである。しかし、逆に言えば、それ以降のテストの点数に影響していないことは、極めて重要な発見である。
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