「お客様は神様」は本当に正しいのか? 顧客第一主義の傲慢さを考える

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 戦略コンサルタントを経て、現在、会津のバス会社の再建を手掛ける著者が、企業再生のリアルな日常を描く。「バス会社の収益構造」といった堅い話から、 「どのようにドライバーのやる気をかき立てるのか?」といった泥臭い話まで、論理と感情を織り交ぜたストーリーを描いていく。
顧客第一主義は本当に正しいことなのか(撮影:尾形文繁)

 前から思っていたのですが……、

お客様は神様なのでしょうか。顧客第一主義というのはそんなに立派なものでしょうか。

冒頭から誤解を招きそうなので補足しますが、私はお客様の重要性を否定しているわけではありません。当然のことながらビジネスはお客様がいないと成立しません。そもそもお客様の購入により自社の売り上げが形成されますから、重要かどうかという以前に、お客様の存在はビジネスの前提条件でもあります。また、お客様からのクレームや要望などのフィードバックを効果的に吸い上げることができれば、現在の売り上げのみならず将来の売り上げのための重要なヒントになります。

企業は利潤をあげてこそ存在価値があるわけですが、利潤は売り上げを上げるか費用を減らすかです。費用を減らすのは自分たちの努力でできても、売り上げを上げるのは「自分たちが」どれだけ売る努力をするかではなく、「お客様が」買いたい気持ちにならなければ何にもなりません。そういう意味でもお客様をその気にさせることは、とても重要な企業活動のひとつでもあります。

でも……、だからと言ってお客様は神様なのでしょうか。私は「お客様を神様と呼ぶなんてオーバーだ」とか、そういう程度問題を述べたいわけではありません。

言い方を変えると、私は顧客第一主義をやたらに強調する人を、何となく信用できません。何かにつけてお客様の重要性を語る人をどこかうさんくさく感じてしまいます。そこで語られている顧客第一主義は、要するにお客様をおだてて気持ちいおくさせて、言うなりにさせているだけじゃないかと。かえってお客様をバカにした行為なんじゃないかとも思います。

少しうがった見方かもしれません。でも顧客第一主義を言うなら、なぜあの携帯電話会社は既存のお客様に値下げしないで、まだ買ってもくれていない見込み客に値下げするのか。なぜあのゲーム会社は新商品を発売後しばらくしてから値下げして、後から買う新規客にお得感を訴求するのか。発売後すぐに買ってくれた、いちばんロイヤリティを持ってくれるお客様はどうなるのか。

(もちろん全部が全部そういうわけではありませんが)とても矛盾しています。
しかしながらそれらはすべて、経営的に合理的ではあります。既存顧客は何もしなくても買ってくれるので、(感謝はするが)何もしない。新規顧客は何かしないと買ってくれないので、割引やら付帯サービスやらをつけて顧客化にエネルギーを注ぐ。経営面での資源配分としては、適切で合理的だと感じます。

多分、顧客第一主義という言葉を喜々として語ることに、どこか漂うこの違和感は、大きくはこういう本音と建前の相克や乖離にあるのだと思います。

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