技術や知的財産、守り抜けば勝てるのか? オープンイノベーションの権威、チェスブロウに学ぶ

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「企業の外側に、ビジネスを生み出す大きなチャンスがあるのだということを実感しました。グローバル企業のマネジメント層は『新しいアイデアを取り入れていかないと、取り残される』と危機感を持って、オープンイノベーションに取り組んでいます。それが企業の成長につながっています。僕の専門分野である宇宙技術の分野にも、応用できるのではないかと考えています」

藤原さんが、この授業から学んだのは、「ゆるく考える」ことの重要性だ。

カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクール
アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校の経営大学院。1898年創立。全米最古のビジネススクールのひとつ。ノーベル経済学賞受賞者が2人教員として在籍。1学年約240人の少人数制でありながら、テクノロジー、起業、NPOなど幅広い分野に人材を輩出。ミッションは「既存のビジネスを再定義するリーダーを育成すること」。アップル、グーグル、ヤフーなど、卒業生の3割がIT業界へと進む。
(日本語ウェブサイト) http://haasjapan.wordpress.com

日本企業では、大企業になればなるほど、研究開発・技術開発のプロセスがきっちり整備されていて、社内の論理で、どの技術が製品化されるか決まっていく。

ところが、社内の論理と、社外のニーズは違う。プロセスの中で採用されなかった技術の中に、宝が眠っている場合も往々にしてある。社内の論理やプロセスにこだわるあまりに、ビジネスチャンスを逃している場合もあるのだ。

「シリコンバレーでは、Minimum Viable Product(最低限のスペックがそろったテスト商品)で、まず市場のニーズを測るというのが一般的です。完全に全部作ってしまわないで、最低限のスペックから、ニーズに応じて、改良していくんです。市場に製品を育ててもらうという発想です」

製品を最低限のスペックで市場に出すなんて、高機能・高品質にこだわる日本企業には抵抗感がありそうだが、日本でこうした考え方を浸透させていくことは可能なのだろうか。

その問いに対して、藤原さんは、チェスブロウ教授の言葉を引用して、答えてくれた。

「『技術はそこにあるだけでは、価値はない。製品やサービスなど、世の中に出て、初めて人の役に立つのだ。技術と社会をつなぐ役割をするのが、オープンイノベーションだ』とチェスブロウ教授が言ったのが印象に残っています。イノベーションは、エンジニアだけではなく、社員全員で取り組んでいくべき仕事なのです」

藤原さんが卒業後、どんな道を選択するのか、楽しみだが、「イノベーション」にかかわっていくことだけは、間違いなさそうだ。

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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