《ミドルのための実践的戦略思考》大前研一の『企業参謀-戦略的思考とはなにか』で読み解く家庭教師派遣会社の営業リーダー・細井の悩み
■解説:細井さんはどうすべきか?
さて、上記を踏まえて、細井さんのアプローチをり返ってみましょう。
3Cで考えるということの着眼は悪くないと思います。しかし、前述のとおり、3Cについて目についたポイントを漠然と考えたところであまり意味はありません。
大事なことは、それぞれのCについて、項目を押さえてしっかりとファクトを洗い出すことであり、更にそうなった背景を具体的に考えることです。
多くの場合は、「全体のうちのどれくらいの話をしているのか?どれくらいのインパクトの話なのか?」「それがどれくらいの割合で推移してきているのか?」といったようなことに対して曖昧にしか答えられません。これらは全て定量的なファクトを洗い出すことを怠っているためです。したがって、細井さんは、このアプローチにある視点を可能な限り定量的に示すことをまずは心がけるべきでしょう。
そして、それ以上に、細井さんに欠けているのが、KSFの概念です。KSFの仮説を持たないままの戦略立案は「思い付き」と思われても仕方ありません。まずこの地方における家庭教師ビジネスのキモは何なのか、ということを丁寧に紐解き、それと具体的な提案を結び付ける必要があります。細井さんはまずはファクトに当たっていないことに問題があるのですが、その上で「なぜそういう結果になっているのか?」という問いかけを行っていないことに問題があります。たとえばもしD県がそれほど魅力的な市場であるならば、X社、Y社しか十分なシェアを築いていないのはなぜか、という問いを持つべきでしょう。その考えを深めていくと、たとえば、この事業は受験校や地元の学校のレベルによって地域ごとに特性が異なること、その特性を踏まえたカスタマイズ性の高い対応が重要であることが見えてくるでしょう。そして、そのためにはスタッフが地域内の受験校や地元の学校を深く理解し、その地域固有のノウハウとして内部のスタッフに確実に展開することがポイントになることが見えてくる可能性があります。そして、それにかかるコスト構造を精緻に分析してみると、手広くマーケットを広げるよりも、ある特定の地域に集約した地域ドミナント展開の方がサービス網やサービスレベルのレバレッジが効き、コスト効率が良いことが見えてくるかも知れません。もしステップ1~3のマクロ的な分析からそのようなプレイヤー構造になっているという結果が導き出されることになれば、細井さんの考えた「売上を上げるために、離れたD県まで手を広げるべきではないか」という提案内容より、「いかにサービス網のレバレッジを効かせるべきか」という方向性の方が提案の質は高くなるでしょう。