《ミドルのための実践的戦略思考》大前研一の『企業参謀-戦略的思考とはなにか』で読み解く家庭教師派遣会社の営業リーダー・細井の悩み

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そんな折、とある経営セミナーを聴講した細井は、ひとつのヒントを得た。そのセミナーで細井が学んだことは、「3C分析」の重要性であった。ビジネスにおいてはCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)、そしてCompany(自社)という3つのCを丁寧に分析することが大事であり、現状のビジネスの改善提案などにも使えるということであった。

「そうか、市場は魅力的であり、競合は強力なプレイヤーが不在である。うちは今の市場で頭打ちであり、今後の成長に向けて何かの施策が必要。だからこそ、今こそD県に進出すべき、というロジックでまとめればいいんだな」という流れが浮かんだ。思いついた細井は、急いで自分のアイディアの骨子をまとめ始めた。

「まず市場・顧客について。これについては、D県は、今の拠点からは距離があるものの、子供の教育に関心の高い家庭が多く、有名私立校も多いというファクトを提示し、Z社のいる市場と同じように教育熱心な市場であるということを言わないとダメだな。また、それを具体化するために、D県の家庭教師の市場規模と3年後の想定市場規模についての仮説を提示し、どれくらい市場が大きくなりそうか、ということを提示するのがいいだろう」。

「次に競合。競合はX社とY社の2社が存在する。両社ともこの地域だけにあるローカルなプレイヤーだから、両社のおおよその売上規模からシェアがどうなっているかは分かるな。それから、この2社ともに大規模な資本を持った大手ではないために、サービスで秀でることができれば十分戦える、という解釈も言えるだろう」。

「そして、最後に自社について。ここはA県ではもう伸びが見込めずに頭打ちになってしまうこと、そして距離はあるものの、この市場を攻略できれば、今後のZ社にとっての成長戦略の一つの足掛かりになるだろう、という意気込みを伝えたいな。データは少ないけどこれくらいで十分だろう」。

細井は時が経つのを忘れて作業に没頭していたが、出来上がったパワーポイントを改め、「客観的に見ても、我ながらなかなかの仕上がりだな」と、満足した。
「本部長はまさかここまで考えているとは思っていないだろう。驚くだろうな」細井は本部長との次の面談を心待ちにしていた。

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