"タイパ"の時代だからこそ《PR・営業》成功のヒントは「非効率思考」にあり? 心を動かすコミュニケーション術をPRのプロと文芸評論家が語る

基本は「断られる仕事」、心折れる営業の日々
三宅:自分自身、本を売るのってなかなか難しいなと日々感じています。例えばテレビで取り上げてもらいたくても、簡単にできることではない。そのことが身に染みて分かっているので、書籍PRを専門にしている職業の方がいらっしゃるんだ、とびっくりしました。
黒田:書籍PRの仕事というのは、基本「断られる仕事」なんです。だから、やっているうちにみんな、だんだん嫌になっていってしまう。例えば、新規営業の仕事に例えると、飛び込みで「この商品置いてください」みたいな仕事。なかなか決まらず、心が折れていくので、やりたがる人があまりいないかもしれませんね。
三宅:そういう仕事を、どうやって続けているんですか。
黒田:以前、講談社でPRを担当していた時は、「これPRしてきてよ」っていう編集者からの依頼や指示に応えることが仕事だったのですが、独立して自分一人になると、全部自力でやらなきゃいけなくなる。会社を続けていくためには、何か指針が必要だと思って。
そのとき、村上春樹さんが『職業としての小説家』で「長編小説を書くときは、毎日、原稿用紙にして10枚の原稿を書く」と書いていたのを真似することにしたんです。
1日10枚の原稿に当たるものは何かと考えて、「1日10件の新規提案をする」と決めた。それだけやってダメだったらしょうがない。でもその代わり、夜中になってでも10件やって1日を終わろう、って決めて、それを続けているんです。
1日10件の営業を続けていると、普段だったら提案しないような人に提案するようになるんですよね。ルールによって行動が変わる。この「1日10PR」を始めて最初に生まれたのが『妻のトリセツ』の50万部のヒットなんです。