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有識者が選ぶ「ベスト経済書2025」【4~5位】。男女の賃金格差、中国人富裕層、弱者を搾取する自由…

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『男女賃金格差の経済学』書影
『男女賃金格差の経済学』(日経BP 日本経済新聞出版)。大湾秀雄(おおわん・ひでお)/1964年生まれ。早稲田大学政治経済学術院教授。専門は人事経済学、組織経済学、労働経済学。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

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経済の専門家が選んだ2025年のベスト経済書・経営書は何か。本特集では、経済学者やエコノミストら有識者27人のアンケートを基にランキングを作成。激動の2026年をどう立ち回るか、ヒントをくれる力作ぞろいだ。

男女賃金格差の具体的な改善策

経済学の最新知見と、著者が取り組んできた企業との共同研究を基に、日本の男女賃金格差を解明。日本特有の事情を考慮しつつ実践的な策を示す意欲作だ。

▼著者・大湾秀雄氏に聞く

男女格差の専門家ではない私が、この本を書いたのは、第1に、男女賃金格差解消に向けて、経営者や人事部のマネジャーが非常に重要な役割を果たすと思っているからだ。

この15年、日本企業の人事データを分析し男女格差に関しても多くの知見を得てきた。それを企業に還元し経営に生かしてもらいたい。企業が具体的に何をするべきか書いた類書はほぼないので、その点で差別化できたと思う。

第2に、岸田政権が「男女の給与の差異の公表」を企業に義務付けたが、今のように単なる男女の平均賃金の比率を公表しても政策効果は小さい。KPI(重要業績評価指標)としてふさわしい格差指標の作成方法を広めたかった。

日本の大企業は男性と女性で基本的な属性分布がまったく違う。年齢、勤続年数、学歴などの分布が相当違うことを踏まえれば、多くの企業において、平均は実態からかけ離れた数字なのだ。

比較的早い時期から内閣官房や厚生労働省に働きかけて、「属性分布の違いを調整できる、回帰分析を使った男女格差の計測を選択肢の1つにしてはどうか」と提案してきた。東京大学エコノミックコンサルティング社から「男女賃金格差診断ツール」も提供し始めた。ツールを売るための商売っけで本を出したわけではないが、「企業間で比較可能で、改善努力が反映される格差指標とは何か」理解してもらうことは大事だ。

将来的には、企業の男女賃金格差について第三者的に測定する評価機関が必要だと考えている。そうした機関の評価を受ければ、例えば自社が業界の中でどのぐらい先進的なのか、遅れ気味なのかという立ち位置の把握も可能になる。「男女格差解消に取り組んでいる企業ベスト100」「女性が働きやすい会社・働きにくい会社ランキング」などを発表していけば、それが企業にとってよい意味での圧力にもなるだろう。

資本市場と労働市場の両方から圧力をかけることによって、企業行動を前向きに変えていく。今後そうした実効性のある取り組みが必要なのではないか。

本書執筆の第3の理由として、男女格差の問題が「経済学とは何か」を理解するうえで、よいトピックだからということがある。

経済学を経済学たらしめている大事な要素の1つとして、「最大化行動」の前提が挙げられる。企業は利益を最大化する、家計は家計所得を最大化する、労働者は自分の効用を最大化する。

そうして各プレーヤーが最大化行動を取った結果として「均衡」が生まれるという考え方がある。実は男女賃金格差は、企業が利益最大化行動をとり、家計が家計所得最大化をはかった結果として生じている側面があるわけだ。

その均衡では、最大化行動が取られる一方で、女性の能力が十分に活用されないという「非効率」が生じている。はからずも男女賃金格差の問題は、「最大化行動」「均衡」「効率性」といった経済学の概念を議論しうるトピックとなっているのだ。本書を通じて、学問の知見と現実のデータの融合に触れてほしい。

2026年も男女賃金格差は官民の重要課題。われわれ経済学者も是正に貢献できるのではないか。

▼推薦者コメント

日本社会に根付くアンコンシャスバイアス、自己評価における男女の傾向の違いなどについての分析に説得力がある。(末吉孝行)

男女賃金格差の発生と存在について、従来の経済学が捨象してきた多様なパラメーターに注目して解明した野心作。(美和 卓)

格差の説明にとどまらず、企業行動や社内制度設計の提言へと接続して論じている。(藤田敬史)

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