[Book Review 今週のラインナップ]
・『略奪される企業価値 「株主価値最大化」がイノベーションを衰退させる』
・『日本のなかの中国』
・『戦争ではなく平和の準備を』
・『在野と独学の近代 ダーウィン、マルクスから南方熊楠、牧野富太郎まで』
評者・BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
新古典派のシンプルな経済理論に基づくと、企業の利害関係者で最後にリスクを負うのは株主とされる。資材納入業者は市場で値付けされた代金を受け取る。資金を貸し出す銀行はリスクの対価として利子を受け取る。従業員は市場で決まる賃金を適切に受け取る。それらの支払い後、株主には残余利益の請求権が与えられるが、その多大なリスクに報いるため「企業経営者は株主価値を最大化すべく行動すべし」というフリードマン原則(ドクトリン)が導かれる。
しかし、株主は有限責任だ。株を売却すれば企業との関係も断ち切られる。一方、ほかのステークホルダーは継続的な取引を行う。とくに従業員はイノベーションにおいても重要な役割を担う。革新的な財・サービスの供給には、共通目的に向けて努力する同僚との協働を通じた知識の蓄積が不可欠だ。労力をかけて人的資本を蓄積する従業員こそ多大なリスクを取っているのであり、それに報いることが重要なのではないか。
株価連動型報酬と雇用リストラ フリードマン流改革の罪
イノベーション理論の大家が本書で論じるのは、1980年代以降、世間を席巻したフリードマン流のコーポレートガバナンス改革が米国の企業価値を損ない、同時に経済格差を拡大させたことである。
かつて米国の大企業経営者は、稼いだ利益を多額の配当として社外に流出させるのを避け、長期投資の原資に充て、同時に従業員の貢献に報いてきた。しかし、自社株買いが合法化され株価連動型の報酬が導入されると、経営者は株価引き上げを目的に、自社株買いの原資を捻出するため雇用リストラに手を染めるようになった。
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