大胆な物価論、日本経済論を展開
日本のデフレとインフレは多くの謎に包まれている。なぜ慢性デフレは突然終わりインフレが始まったのか。異次元緩和はなぜ失敗したのか。
著者は物価研究の第一人者。『物価とは何か』『世界インフレの謎』に続く本書では、最先端の理論・データ分析を基に大胆な物価論、日本経済論を展開する。
▼著者・渡辺努氏に聞く
2022年に出版した『物価とは何か』は、時事というよりは物価に関する学問的、基礎的な話をわかりやすく解説する本だった。
同年末の『世界インフレの謎』は、もうちょっと時事的なところに関心があった。ちょうど海外でインフレが進んでいたので、その理由を書こうとした。ただ、その時点でのインフレはあくまでアメリカやヨーロッパの話で、今のようなインフレが日本で起こるとは思っていなかった。
今回の本は、インフレに入ってきた日本をきちんと書こう、とりわけ長期デフレがインフレに移行した理由を説明しよう、と考えたものだ。急激に動いていく世の中を観察しながら、それを書物にしていったら、結果的に3冊になった。
本書では、コロナ禍における日本の自発的ロックダウンを慢性デフレに重ねて解説している。これは原稿を書きながら、考えながら出てきたアナロジーだ。日本ではデフレがなぜこんなに長く続いたのか。法律や外国の動向の影響でデフレが長引いたわけでも、政策が失敗したわけでもなかったと思う。だから、まずは日本独特の慢性デフレの要因を上手に説明する必要があると考えた。
そのキーワードが、まさにコロナ禍の日本で起きた「自粛」だ。民間部門発の「賃上げ自粛」「値上げ自粛」が長期デフレにつながったと捉えて論を立てたわけだ。
今のようなインフレへの転換局面は、民間の自粛が解けてきたことを意味する。であれば、自粛が解けるメカニズムも議論の必要があるだろう。さらに、今後何かのきっかけで「やはり値上げも賃上げもやめよう」という話になるかもしれない。本書では、再びデフレに戻るリスクも考察している。
24年11月の出版後、25年4月にトランプ米大統領が関税の話を始めた。前代未聞のことで、日本経済にどのぐらいの影響があるか誰にもわからず、日本銀行も見通しを非常に厳しく変更した。
本書の想定からはずいぶんはずれた状況になってしまったと思いきや、実際には関税の率がまあまあのところに落ち着いた。自動車や一部の産業には影響が出ているが、思ったほどの心配はないとわかってきた。
年末にかけて、日銀が利上げをするという話も出ている。25年1月の利上げ後はトランプ関税の影響でストップしていたが、日銀が利上げできると判断する状況に戻ってきたのだ。
コロナ禍やトランプ関税の混乱を経て、日本はようやく、いろいろな意味での正常化をリスタートできる時期に来たように思える。
現時点では、日本経済は本書の想定と同じ状況に戻ったように思う。今後の日本経済について考える際に、まだまだ本書は便利に使ってもらえるはずだ。
400ページの厚さだ。内容を暗記する必要はない。読者には、ここに書いた考え方、思考の手順をたどりながら、物価や経済への直感を養ってほしい。
▼推薦者コメント
「慢性デフレ」をコロナ禍の「自発的ロックダウン」と重ね合わせた説明が秀逸。デフレからインフレの過渡期に生きるわれわれにとって必読の1冊。(唐鎌大輔)
豊富なデータから物価や賃金の動向が詳細に解説される。わかりやすい説明は、物事の伝え方としても勉強になる。(小池理人)
物価急変のメカニズムに迫る良書。著者がさまざまな仮説に辿り着く過程も興味深い。(前田和馬)




















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