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金融政策は21世紀に「死んだ」のに、どうして世の中これほど振り回されるか?「物価の権威」渡辺努氏の最終講義への徹底反論③終

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日銀の力がどう働くのか、見解は真っ向対立(写真:Kozaki Kazuki/Kyodo News/Bloomberg)
物価研究の権威である渡辺努氏が、東京大学大学院経済学研究科で行った「最終講義」に対し、旧知の仲である小幡績氏(慶応義塾大学大学院教授)が徹底反論するシリーズの最終回。最終講義の概要を小幡流にレポートした上編、「デフレより円安が罪深い」と反論した中編に続いて、最終回では根本的な問いを投げかける。
金融政策の可能性を追求する渡辺氏に対し、小幡氏は「金融政策で物価や景気をコントロールする」という前提を疑う。それはマクロ経済学そのものへの反論だ。
*2025年5月17日7:00まで無料の会員登録で全文をお読みいただけます。それ以降は有料会員限定となります。

なぜ、異次元緩和は効果がなく、マイナスの影響しかなかったか。

それは、21世紀には、「金融政策は死んだ」からである。

金融政策が死んだ、とはどういうことか。

異次元緩和はそもそも間違っていると前回議論したが、しかし、異次元緩和に限らず、21世紀においては、日本だけでなく、欧米においても、金融政策は従来の効果を持たなくなってしまったのである。

つまり、インフレ抑制には効かなくなってしまった一方で、実体経済への景気刺激策としても利下げの効果は小さくなってしまっており、金融政策の存在意義がほぼ失われたのだ。

しかし、世間では、中央銀行の金融政策に一喜一憂するどころか、その見通しのわずかな変化にも振り回され、金融関係のニュースといえば、次の日銀、FRBの政策変更、利上げにせよ利下げにせよ、それがいつかということばかりになっている。

なぜか。

今や金融政策は害悪である

それは、金融政策がインフレにも景気刺激にも抑制にも効かなくなった一方で、金融資産市場への影響が非常に大きくなっているからである。

その結果、金融政策の動向に、株式市場、為替市場、そしてもちろん債券市場が大きく振り回され、実体経済への影響は、この金融資産市場が右往左往する余波という形がほとんどになってしまったからである。

つまり、金融政策は、インフレや景気の平準化という本来の目的が果たせずに、金融資産市場にだけ大きな影響を与え、それがインフレや景気に望まない形、あるいは中央銀行が直接コントロールできない形で影響することとなり、その結果、副作用的な影響だけが生じるようになった。

金融政策は、21世紀の実体経済においては、害悪となってしまったのだ。

これが渡辺努教授と小幡の根本的な違いである。

渡辺先生は金融政策の可能性に大きな期待を寄せている。異次元緩和も実験としてトライする価値はあった、だが失敗した、という立場だ。そして、異次元緩和は失敗したが、人々のインフレ期待に働きかけるのも、ミクロの視点を踏まえたミクロとマクロの政策を総動員すれば可能だと思っている。

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