円安インフレの痛み招いた日銀の「誤算と欲」 『グローバルインフレーションの深層』河野龍太郎氏

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河野龍太郎
河野 龍太郎(こうの・りゅうたろう)BNPパリバ証券チーフエコノミスト、経済調査本部長。1964年愛媛県生まれ。1987年横浜国立大学経済学部卒業、住友銀行(現・三井住友銀行)入行。大和投資顧問(現・三井住友DSアセットマネジメント)、第一生命経済研究所を経て2000年よりBNPパリバ証券。著書に『成長の臨界』など(撮影:尾形文繁)
あらゆる値段が上がっている。日本の円はすっかり安くなった。これが「脱デフレ」と望んだものだったのだろうか。先進国を中心に世界を襲ったインフレは一過性なのか。最前線に立つエコノミストが、底流を読み解いた1冊。
グローバルインフレーションの深層
『グローバルインフレーションの深層』(河野龍太郎著/慶應義塾大学出版会/1760円/336㌻)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

――日本で続いてきた低インフレは終わったのですか。

ゼロインフレのノルムにとらわれている私たちは、ショックが過ぎれば元に戻ると思っている。ですが、そうした時代は終わった可能性があります。

日銀は円安インフレを「一時的」だと見なしていました。それが長引いているのは、実は労働供給がタイトになっているからです。そこが日銀の誤算の1つです。

2010年代の終わりに、高齢者と女性の労働供給はほぼ限界に近づいていました。そのまま経済の回復が続けば、労働需給はもっと逼迫するはずでした。「ルイスの転換点」がやってきていた。

*ルイスの転換点:工業化の過程で、農村からの労働供給が枯渇すると賃金が急上昇することを指す。2010年代の日本では高齢者と女性の労働供給をこれになぞらえ、いずれ枯渇すると指摘されていた。

コロナの間も高齢者は労働市場から退出し、経済の天井は徐々に低くなっていたのですが、コロナで需要が低かったのでそれが見えなかった。経済が再開したとたん、あらゆる分野で人手不足が明確になりました。

この大きな底流があったところに、グローバルインフレーションがやってきたのです。

ただ、この2つだけだったら、ショックが減衰する可能性もありました。欧米でもインフレ率は徐々に下がってきていて、時間がかかるにせよ、このまま沈静化する可能性もあります。

本の冒頭に引いた「インフレは財政的現象」

もう1つの誤算は、財政です。

岸田政権は物価高対策を繰り返しています。それに、財政拡張的だった安倍晋三元首相ですら、恒久財源がなければ恒久支出を決めませんでしたが、岸田首相は少子化対策に防衛費と歳入に大きく先行させて歳出を決めてしまっています。GX(グリーントランスフォーメーション、気候変動対策)は歳入を固めていますが、歳出が大きく先行します。

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