高市早苗首相は2025年10月、上野賢一郎厚生労働相に対して、心身の健康維持と従業者の選択を前提とした労働時間規制の緩和の検討を指示した。この方針は、働き方改革関連法の施行から5年以上が経過した現状を踏まえ、労働市場の変化と企業競争力の強化を背景に打ち出されたものである。
さらに、高市首相は11月5日の参議院本会議において、労働時間規制の弊害として残業代が減ったことで、慣れない副業により健康を損ねる懸念があると述べ、改めて規制の見直しに意欲を示した。
労働時間の規制緩和については、すでに過剰労働の健康リスクや企業と労働者のパワーバランスへの懸念、ワークライフバランス(WLB)の悪化といったミクロ的な論点が数多く議論されている。これらは当然重要な視点ではあるが、当レポートではあえてそれらを脇に置き、マクロ経済的な影響に焦点を当てて考察を進めたい。
労働時間が延びると、消費が抑制されるおそれ
労働時間の規制緩和がもたらすマクロ的な影響は、大きく分けて2つの方向性がある。1つは「人手不足の解消による供給力へのプラス効果」、もう1つは「余暇時間の減少による需要へのマイナス効果」である。
前者については、すでに幅広く議論されているように、労働時間の延長によって労働投入量が増加して潜在成長率の押し上げにつながるという期待がある。人手不足が社会問題となる中、労働供給制約の緩和は喫緊の課題であり、規制緩和によって就業可能時間が増えることは企業の生産能力を維持・拡大する上で一定の合理性を持つ。
しかしながら、後者の「需要へのマイナス効果」については、十分に議論されているとは言い難い。労働時間が延びることで余暇時間が削られ、結果として消費活動が抑制される可能性がある。これは、特にサービス消費の比率が高い日本経済においては、無視できない影響である。




















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