家政婦訴訟で浮き彫り「労基法なき職場」の過酷 総裁選でも議論浮上「働き方改革」否定の禍根

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高裁判決後、急死した妻の遺影の前で会見した夫(記者撮影)

家政婦兼介護ヘルパーとして約1週間、住み込みで働いた後に急死した女性(享年68)の労災を認定しなかったのは不当として、遺族が国を相手に処分の取り消しを求めた訴訟で、東京高裁は9月19日、過重業務による労災と認めた。遺族の請求を退けた一審判決を取り消す、逆転勝訴となった。

女性は家事と介護で午前4時半から午後8時半ごろまで働き、1日の労働時間は15時間に上っていた。7日間の総労働時間は105時間、時間外労働時間数も65時間に上った。

深夜時間帯も利用者のおむつ交換で6時間以上連続して睡眠をとることもできなかった。休日のない連続勤務で、おむつ交換を含めると、勤務間インターバルは4時間程度しかなかった。

専用の部屋も与えられておらず、休憩や手待ち時間は台所のいすに座るなどして過ごすことを余儀なくされ、時間的にも質的にも業務による疲労を回復させるのに十分な睡眠を確保することは困難だったと認定された。

高裁は女性の一連の業務は厚生労働省が定める「短期間の過重業務」に該当し、死亡は業務と因果関係があると結論付けた。

家事使用人には労基法が適用されない

こうした極めて過酷な労働実態があったにもかかわらず、なぜ一審や労働基準監督署では労災が認められなかったのか。労働基準法は家庭と雇用契約を結んだ「家事使用人」には適用されない(同法116条2項)ため、労働時間全体のごく一部に過ぎない介護にあたった時間のみを、労災の検討対象としていたためだ。高裁は家事と介護の業務を一体的に行っていたという実態を重視し、家事使用人には当たらないと判断した。

亡くなった女性の夫は「家事使用人、介護の仕事をする多くの皆さんを救う判決だ」と語る。遺族側代理人の指宿昭一弁護士は「本件では紹介会社が仲介していたが、今はネット上のマッチングサービスを使って直接家庭と契約し、家政婦として働くケースも増えている。これだとまさに労働基準法が適用されない。早急な法改正が必要だ」と警鐘を鳴らす。

労働時間規制をはじめとした労働基準法が適用されない世界とは、いったいどういうものなのか。高裁では覆ったものの、一審や労基署の判断はまさにそれを体現したものだった。

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