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「物価の権威」渡辺努氏は「価格メカニズムを損なうデフレの罪」を問うが、はるかに罪深いのは「円安のひずみ」だ。最終講義への徹底反論②

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米トランプ政権は日本の「通貨安誘導」を批判(写真:Bloomberg)
物価研究の権威である渡辺努氏が2025年3月末、東京大学大学院経済学研究科を退職した。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授は渡辺氏と旧知の仲。東京大学経済学部で根岸隆教授のゼミの先輩・後輩にあたる。東洋経済オンラインで対談を行っている(前編後編)。
3月28日に東京大学で行われた渡辺氏の最終講義に対し、小幡氏が愛を込めて3回にわたり"徹底反論"する。最終講義の概要を小幡流にレポートした前回に続いて、今回はいよいよ反論に入る。
※本記事は2025年4月15日7:00まで無料の会員登録で全文をお読みいただけます。それ以降は有料会員限定となります。

今日は反論である。

論点は3つ。前回の最終講義のポイントの3つに対応している。

第1に、なぜ物価が重要か。

重要ではない。価格メカニズムが機能することは、市場経済においてもっとも重要であり、物価水準、インフレ率水準自体は、価格メカニズムを機能不全に陥らせる可能性があるという意味で重要であるが、それ以上ではない。

そして、日本経済の価格メカニズム不全はデフレが真の原因ではない。

第2に、いわゆるゼロ金利制約であるが、現実的に、それを排除するべきかどうかは、物価だけでなく経済全体への影響を考え、メリット・デメリットを総合的に判断すべきである。金融政策の枠組みだけで考えるのでなく、財政やそのほかの政策、経済社会構造を視野に入れて総合的にとらえるべきである。

さらに言えば、ゼロ金利制約というものは、やっかいなことであり排除すべきものかというと、まったく逆で、ゼロ金利制約こそが経済の安定性をもたらすのであり、原理的に経済社会に不可欠なものだというのが私の考えである。

異次元緩和が間違っていると言える理由

第3に、中央銀行の政策パッケージおよび姿勢については、異次元緩和は失敗ではなく、原理的に間違っており、やる前からやるべきではないことがわかっていた。副作用どころか経済へのダメージが大きく、状況次第、政策の効果と副作用のバランスで考えるべきものではなく、何があってもやるべきでない。

金融政策で人々の将来への期待に働きかけるという手段が当初のメインアプローチであったが、これは機能しない。期待で動くのは、実体経済でなく金融資産市場だけである。

2つ目の手段のバランスシートポリシー(国債などの資産買い入れ)は、中央銀行が経済危機における「最後の貸し手」であるのと同様に「最後の買い手」である場面に限って有効であり、それ以外は副作用しかない。リーマン・ショックのときのアメリカの中央銀行のリスク資産の買い入れは「最後の買い手」にあたるし、国債買い入れもその延長線上にあるといえばあるが、それは財政ファイナンスにほかならない。

最後に、上述のように金利のゼロ制約は経済の安定性には必須であるから、マイナス金利政策は行うべきでない。人々がマイナスの金利に対して持つ

違和感は、錯覚でも未経験に対する不安でもなく、真理に対する直観である。

説明しよう。

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