"タイパ"の時代だからこそ《PR・営業》成功のヒントは「非効率思考」にあり? 心を動かすコミュニケーション術をPRのプロと文芸評論家が語る
黒田:その状況をなんとか打開しようと、あらゆるビジネス書を読んで見つけたのが「商品の説明をしないで、相手のお困りごとに応える」方法。これで一気に20件の新規契約を取れた、っていう成功体験があって。今の書籍PRも、その方法をベースにずっとやっているんです。
それから僕は、三宅さんが本で語っている「相手との情報格差を埋める」大切さに共感しました。自分が提案したい商品やサービスにあまり興味がない人に、自分がすすめたいものをどう伝えるか。ここが、ビジネスにおける一番のポイントだと思うんです。
それは、自分の“推し”の魅力を、その“推し“に興味がない相手に伝えたいときに必要な言語化スキルとまったく同じなんですよね。
三宅:「“推し”について語ろうと思って本を買ったけれど、自分の仕事に役立った」という声を読者からたくさんいただきました。例えば就活の面接で自分を売り込むとき、営業で自分が担当しているものを売り込むとき、いきなり「エピソードで魅力を語ろう」と言われても難しいと思うんです。
でも、「そのよさを細かく分けよう」と言われると、まだできそうだと思えるビジネスパーソンも多いんじゃないかな、と。
黒田:わかります。三宅さんが「すべての発信は、相手との距離をつかむところから始まる」と書かれている部分に、何度も頷いてしまいました。
こちらはどんなにその商品がいいと思っていても、相手は必ずしも興味があるわけではない。だから、商品やサービスの説明から入っても、相手には届かないんですよね。「商品やサービス」と「相手の興味」、どうやったらこの間を埋められるかを考えなきゃいけない。
三宅:まさにみなさんに考えてほしかったのはそこです。
顧客の「問い」から提案方法を見つける
三宅:黒田さんは、自分が担当している本の「ここが好き」は、いつもどうやって見つけているんですか?
黒田:編集担当の人に「なんでこの人に書いてもらいたいと思ったんですか」「他の人とどう違うんですか」と、どんどん聞きます。そうすると、本には書かれていないエピソードが出てくるので。
三宅:コミュニケーションの中で言語化を見つけていくことが多いんですね。
黒田:そうなんです。本のPRをするうえで気をつけているのは「本の内容は説明しない」ということ。「この本について特に知りたくない」っていう人に、延々と本の説明をしても届かないから、もう「確かにそれ、私も興味あるかも!」という一言を、編集者の言葉や著者のインタビューの中から探しているんです。
著者インタビューに立ち会うといいのは、その場でメディアの人は何が欲しいと思っているか聞けること。「今、どんなネタが欲しいですか?」って聞くと「SNSでバズっているものかな」とか「やっぱり行列ができる店かな」とか、相手が欲しいものが返ってくる。三宅さん、ご自分のYouTubeでカバンの中身を見せていましたよね?
三宅:あの回、けっこう好評だったんです。私自身が、いろんな作家さんのカバンの中を見てみたいなあ、と思っているもので。
黒田:ですよね! メディアの人が欲しがるのもまさに一緒で、みんなが見たいけれどなかなか見られないもの。例えば、「この著者さんがこんなふうに素敵なんです」って紹介してもなかなか取り上げてもらえないんですが、そんなときに「クローゼットの中を見せられます」「冷蔵庫の中を見せられます」という提案をする。
三宅:確かにそれは気になりますね!
黒田:「本には出てこないけれど大丈夫ですか?」と著者さんに確認して、取り上げてもらうわけです。そうやってようやく商品を買ってもらえるんですよね。
三宅:本に書いてあることじゃなくて、人の興味の“入り口”みたいなものを見つける、と。
黒田:そうです。商品をおすすめしたいのは、こちらの都合でしかない。その前に、すすめたい相手の興味や必要としているものを探すわけです。そのためには、機会を見つけては、徹底的に相手に聞く。
三宅:どうやって?
黒田:テレビの人によく「取り上げてもらわなくていいです。ただ、もしこの本を取り上げていただくとしたら、どんな方法が考えられますか?」と聞くんです。まず「取り上げなくていい」って言って、いったん相手のガードを下げるんですね。
それで、相手から返ってきた方法を持ち帰って、それに応える企画をあらためて提案します。これを繰り返していくと、メディア出演が決まることがよくあるんです。
だから、セールスがなかなか決まらない営業の人におすすめするのは、クライアントにまず「契約しなくていいです」と言ってから、「ただ、今契約していらっしゃる会社のサービスで、『ここ、改善してほしいな』というところがあったら教えてください」と聞きまくることですね。
僕が、かつて営業マンだったときに一気に新規契約が取れたのも、この方法でした。
三宅:なるほど!
黒田:相手のガードが下がっているときのほうがいいので、わざわざアポを取らない。著者のインタビューの合間や、相手と一緒に移動する駅までの道や、エレベーターの中のほんの15秒くらいのコミュニケーションのほうが効果的だったりします。
三宅:みんなが望むことって、だらだら1時間2時間商品の説明されることじゃないんですよね。それこそ、エレベーターに一緒に乗っているときの、15秒ぐらいで言ってくれて、「それいいじゃん!」ってなる……それを求めているんだと思います。
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