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船舶用水素エンジン開発で前進も、ユーザーの確保とサプライチェーン構築が課題/国際規制まとまらず、脱炭素化に強い逆風

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船舶の脱炭素化を視野に水素エンジンの開発が進む。川崎重工業は陸上での船舶用水素エンジンの実証を始めている(写真:川崎重工業)

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水素やアンモニア、e-メタン(再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素〈CO₂〉から作られる合成メタン)などの水素関連エネルギーの実用化は、脱炭素社会を実現するうえで不可欠だ。
連載第2回の今回は、船舶用水素エンジン開発の取り組みと課題についてリポートする。

2025年10月20日、兵庫県明石市のジャパンエンジンコーポレーション本社工場で、船舶用の液化水素燃料供給設備の完成式典が開催された。併せて船舶用エンジンメーカーである川崎重工業、ヤンマーパワーソリューションが開発を進めている水素エンジンの実証機も、マスメディアに公開された。

川崎重工など2社はジャパンエンジンの本社工場内に実証用の水素エンジンを設置し、水素の供給を受けて陸上試験をすでに始めている。ジャパンエンジンを含む船舶用エンジンメーカー3社はコンソーシアムを結成して液化水素燃料供給設備を新設。水素エンジンの開発のために共同で利用している。こうした取り組みは世界でも例がないという。

船舶用水素エンジンの技術開発の難易度は高い。水素は最も軽い元素であり、無色・無臭で拡散しやすく、取り扱いが難しい。燃料として用いる場合、最小着火エネルギーが小さいため火がつきやすい、燃焼速度が速く可燃範囲が広いために制御が難しいといった問題があり、異常燃焼が起こりやすいとされる。

また、分子が小さいため漏洩しやすく、金属を損傷させる「脆化」といった現象を引き起こす。液化するにはセ氏マイナス253度まで冷却する必要があり、製造や輸送の過程で膨大なエネルギーを消費するといった問題もある。

そのため、水素エンジンや水素燃料運搬船などの開発のハードルは高く、高コストの克服が難題となっていた。

エンジン開発では課題解決に目途

今回、水素を燃料とした船舶用エンジンの開発で大きな前進があった。

川崎重工、ヤンマーパワーソリューションは、異常燃焼など水素エンジン特有の技術的な課題解決にメドをつけ、船舶搭載用の原型となる陸上試験用のエンジンを開発した。ジャパンエンジンはさらに大型のエンジンを製造中で、26年春頃に陸上試験を開始する。試験を通じ、各社は安定した燃焼技術の確立を目指す。

10月20日に兵庫県明石市のジャパンエンジンコーポレーション本社工場で開かれた、船舶用の液化水素燃料供給設備の完成式典(記者撮影)

水素燃料船の開発については、政府のグリーンイノベーション基金から30年度までの10年間にわたって245億円にのぼる支援を受けており、エンジンおよび水素供給システムの実用化を狙っている。

国立研究開発法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の川北千春・次世代船舶チーム長によれば、「ノッキングやバックファイヤ(逆火)といった水素エンジン固有の課題を、各社は制御技術を磨き上げることでクリアしている」という。そのうえで川北氏は「もともとのスケジュールと比べても、大きな遅れもなく、開発は着実に進捗している」と評価する。

世界を見渡しても、日本メーカーが水素エンジンの開発でリードしていることは確かだ。国土交通省が策定した「船舶産業の変革実現のための検討会報告書」(24年6月)では「30年における次世代船舶受注量の世界トップシェアを目指す」とされており、水素燃料船もその一翼を担うことが期待されている。

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