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水素、アンモニア、eメタン、eフュエルの勝算は?/GX関連の取り組み後退が顕在化。橘川武郎・国際大学学長が抱く危機感

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橘川武郎(きっかわ・たけお)/国際大学学長。1951年生まれ。83年東京大学経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大学教授、一橋大学教授、東京理科大学教授などを経て現職。研究分野はエネルギー産業論、日本経営史など(撮影:梅谷秀司)

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日本政府はGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ぶ戦略を通じて水素やアンモニア、eメタンなどの次世代エネルギーの実用化を進めようとしている。その進捗状況や課題について、エネルギー政策やエネルギービジネスに詳しい橘川武郎・国際大学学長に聞いた。

──水素関連エネルギーの実用化はGX戦略の根幹です。現状をどう見ていますか。

2025年を見渡すと、水素やアンモニア、都市ガスの原料となるeメタン、次世代燃料であるeフュエルやSAF(持続可能な航空燃料)などの主要分野で、おしなべて取り組みの後退が目立つ。進展したのは、35年度のカーボンニュートラル化率の目標を改めて明示したLPガス(液化石油ガス)分野くらいだ。

eフュエルでは、今年10月にENEOSがグリーンイノベーション基金事業に基づくパイロットプラント建設・試験について無期限の延期を発表した。11月には東京ガスがアメリカでのグリーン水素(再生可能エネルギー由来の水素)を活用したeメタン製造プロジェクトを解散する方針を明らかにした。いずれもインフレーションによるコスト増を主たる理由に挙げている。

東京ガスはカナダでの生産実現に方針を切り替えたが、規模を縮小する。24年以降、オーストラリアでのグリーン水素、ないしブルー水素(天然ガスなど化石燃料由来の水素で二酸化炭素〈CO₂〉回収・貯留〈CCS〉と組み合わせたもの)プロジェクトも相次いで白紙化しており、大型案件の頓挫が目立つ。

水素やeメタン導入機運は後退

──政府は水素などの次世代エネルギーに関し、研究開発から生産設備の建設、既存エネルギーとの価格差の補填までを網羅する、手厚い支援体系を構築してきました。水素社会推進法など関連法も整備しました。何が後退の原因となっているのでしょうか。

撤退を決めた各社は、直接的にはインフレによるコストの高騰が原因であると説明している。その説明自体は間違っていない。他方で、脱炭素化への意欲の低下も目立ってきている。各社が最近になって発表した経営戦略では脱炭素への意欲の低下が顕著で、取り組みや数値目標の記載があいまいになっている。

今年5月に発表されたENEOSの第4次中期経営計画では、水素やSAF、合成燃料などの生産に関する数値目標が前回の第3次中計から打って変わって後退してしまっている。

都市ガス各社が加盟する日本ガス協会が今年6月に発表した2050年の「ガスビジョン2050」では、50年のカーボンニュートラル実現の時点で、都市ガス供給に占めるeメタン・バイオガスの割合について、「90~50%程度」という記述に改められた。

21年発表の「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」では、50年のガス供給に占める原料の割合のうち、「eメタン90%、バイオガスその他脱炭素の手立て5%」(残る5%は水素直接利用)と記述されていた。

このことを取り上げても、eメタンの導入については書きぶりが大きく変わった。天然ガスの利用を続けるという現実的な目標になったが、90%目標を掲げた当初のビジョン自体に現実味がなかったとも言える。

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