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水素ビジネス「離陸」への苦闘・第1回/「やまなしモデル」が切り開く、地産地消の可能性/県外へセールス、インドなど海外展開も

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山梨県北杜市白州での水素製造施設開所式(記者撮影)

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水素やアンモニア、eメタン(再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素〈CO₂〉から作られる合成メタン)などの水素関連エネルギーの実用化は、脱炭素社会を実現するうえで不可欠だ。ヨーロッパ諸国やアメリカ、中国など世界の国々が水素関連エネルギーの実用化にしのぎを削る中、日本でも技術開発や生産で新たな進展がみられる。
他方、製造コストの低減やユーザーの確保は容易でなく、大きな壁に直面している。今回の特集では、現場リポートおよび有識者へのインタビューなどを通じて、日本での水素関連ビジネスの取り組みの成果と課題について検証する。連載第1回となる今回は、「やまなしモデル」と呼ばれる、再生可能エネルギー由来水素の地産地消の取り組みをリポートする。

2025年10月11日、南アルプス連峰の麓に位置する山梨県北杜市白州で、「グリーン水素パーク―白州―」がオープンした。

天然水(ミネラルウォーター)やウイスキーを製造するサントリーホールディングスの工場に隣接する県有地で、再生可能エネルギー由来の電力から水素を作る「やまなしモデルP2G(パワートゥーガス)システム」の中核をなす水素製造装置が稼働。約2キロメートルのパイプラインを通じてサントリーHDの天然水工場への水素の供給が始まった。

天然水工場の敷地には、三浦工業によって新たに開発された水素燃焼用のボイラーが設置され、天然水殺菌工程での充填用設備の洗浄のために水素をエネルギー源とする蒸気が活用されている。

白州にあるサントリーHDの天然水工場に設置された三浦工業製の水素燃焼用ボイラー(記者撮影)

サントリーHDによれば、同工程で使用する水素の量は年間約400トン。将来は直火蒸留の設備を導入し、ウイスキーの蒸留に水素エネルギーを用いることも検討しているという。

サントリー工場への導入が起爆剤に

白州で導入されたP2Gシステムでは「グリーン水素」を製造する。グリーン水素とは、再エネ由来の電力を用いて製造した水素だ。二酸化炭素(CO₂)排出を伴わず、環境負荷が少ない。白州のP2Gシステムには、東京電力グループの販売子会社が水力発電由来の電力を供給している。

このP2Gシステムの特徴として、水の電気分解によって水素を製造する装置の能力が大規模であることが挙げられる。16メガワットという水電解装置の能力は、福島県浪江町に建設された施設の能力(10メガワット)を上回り日本最大だ。

また、技術でも優れた点が多い。固体高分子(PEM)型と呼ばれる水電解の仕組みを採用し、電解質膜を介した水素ガスの逆流が小さいことの安全性の高さや、再エネ電力に特有の負荷(出力)変動への対応能力の高さも特徴だ。太陽光発電や風力発電のように天候によって出力変動の大きい電源を用いるのに向いているとされる。

水電解装置の中核となる電解質膜は、東レが開発した炭化水素系の素材を採用。水電解装置はカナデビア(旧日立造船)とドイツのシーメンス・エナジーが開発した。

カナデビアの水電解装置(記者撮影)
シーメンス・エナジーの水電解装置(記者撮影)

このP2Gシステムを24時間365日フル稼働させた場合、年間2200トン(2500ノルマル立方メートル/時)のグリーン水素を製造することができる。プロジェクトを主導する山梨県などは、サントリーHDのほかに周辺の工場などにも供給の機会をうかがっている。

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