《ミドルのための実践的戦略思考》大前研一の『企業参謀-戦略的思考とはなにか』で読み解く家庭教師派遣会社の営業リーダー・細井の悩み
■ミドルリーダーにとっての意味合い
さて、その上で改めてこのアプローチにおけるミドルにとっての意味合いを考えてみましょう。
まず、私自身が研修の現場でミドルリーダーたちと議論して感じることは、その企業や事業のKSFを把握しているミドルリーダーは非常に少ないということです。
ひょっとしたら「KSFなんて経営者やマネジメントレベルの人たちが考えればいいこと」と思っている読者もいるかも知れませんが、そんなことはありません。ミドルリーダーが事業のKSFを押さえていることで、日々の現場の意思決定の質は大きく左右されるのです。今回の細井さんのように既存事業をどう立て直すかということを考える場合は少ないかもしれませんが、たとえば「新しくスタッフを採用するかどうか」というような意思決定でも同じです。そのようなミドルが日々の現場で意思決定をしなくてはならないシーンにおいて、本当に強い企業というのは、ミドル自身がその事業のKSFに立ち戻り、そこからぶれない意思決定をしているのです。このような分析作業を「自分とは縁遠い作業」と考えずに、日々の意思決定の質を向上させるものと捉えて本書を読んで自分の事業をしっかり見直すミドルマネジャーが一人でも多く出てくることを期待したいと思います。
しかし、これを実際にやろうとすると、ひとつの壁にぶつかります。それは「データが入手できない」ということです。「競合のデータがない」「市場のシェアの推移も分からない」ひいては「社内のコスト構造のデータも分からない」なんてこともざらにあります。社内のデータは実際に存在したとしても、データベースが整っていない会社などは、経理などに頼んで入手する必要があり、それはそれでかなりの苦労になるでしょう。したがって、細井さんがまとめたようなざっくりとした3C分析レベルで済ませたくなる気持ちはよく分かります。
しかし、この手のレベルの3C分析をやっていては、決して上司の声の大きさには勝てない、ということは理解をしておくべきです。なぜならば、その手の「感覚的な」情報は、否定しようと思えばいくらでも否定できるのです。たとえば、「俺はそう思わない。やっぱり品質は大事だ」というような上司からの意見。これに対して、ファクトを持たない部下は、なすすべはありません。つまり、具体的なファクトを持たない人間は、声の大きさに負けてしまうのです。
ダイレクトな数字は入手できないとしても、身の回りの数字からいくらでも仮説は立てられるはずです。繰り返しになりますが、重要なことは「しつこく、徹底的に」です。安易な3Cに逃げず、パワーポイントで見栄えの良い資料を作るのでもありません。まずはこのアプローチに愚直に従って、ポイントを確実に押さえた骨太な戦略を立てることを心がけていただければと思います。
荒木博行(あらき・ひろゆき)

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