

早朝の列車だからか、タイパとコスパが悪いからか、席は1~2割しか埋まっていない。4人が座れるボックス席を独り占めだ。振り向くと一人旅の女性と目が合い、どちらともなく会釈しあった。
先ほど日本語であいさつをしてくれた男性がやってきて、英語で「私はルイスです」と名乗ってから、所要時間や設備の説明を始めた。
その話を聞きながらふと思った。筆者はこの世界一周で、初めて飛行機のビジネスクラスに乗った。乗る前に期待していたのはフルフラットのシート、レストランのような機内食、料理やアルコールが並ぶ航空会社のラウンジ。
けれど最初のフライトとなったANAの機内で、CAが筆者を名前で呼び、自己紹介をしてくれたとき、「移動手段」と捉えていた飛行機が一瞬で「滞在する空間」に変わった。腰をかがめて丁寧に接してくれる乗務員が、「非日常の世界」に連れていってくれる案内人のように感じてドキドキした。ペルーレイルでも、このときと同じ気持ちになったのだ。
『コンドルが飛んでいく』のBGMが流れ、列車がゆっくりと動き出す。筆者の世代でこの曲を知らない日本人はほとんどいないだろう。音楽の教科書に載っていた曲を地球の裏側で聴く日が来るとは。いや、ここが曲の原産地なんだけど。
スイッチバックの連続でゆっくり進む列車
出発した列車は、のろのろと急勾配を登り始めた。スイッチバックの連続で進んだり戻ったり、自転車の方が速いのではないか。確かに時間はかかるが、だからこそ、ゆっくりと外の景色を楽しむことができた。
かつてインカ帝国の首都として繁栄し、世界遺産マチュピチュの玄関都市でもあるクスコは、観光地らしい観光都市だ。中心部の大きな公園では常にイベントが行われ、日本語を含め、複数の言語が耳に入ってくる。
一方、列車の大きな窓からは幼稚園や朝の市場といった、この地に根を下ろしている人の暮らしが見える。
列車が出発して20分ほどすると、通学している子どもたちの姿が目に入りだした。学校や職場に向かう人々と並走するかのように列車はゆっくりと走行する。

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