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あえて「格式張らない新訳」で読む源氏物語の斬新 角田光代が5年がかりの新訳に挑み得た気づき

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山本:角田さんの現代語訳、冒頭はこうですね。「いつの帝の御時だったでしょうか——」。冒頭は「ですます調」の敬語表現ですが、このあとから変わります。

その昔、帝に深く愛されている女がいた。宮廷では身分の高い者からそうでない者まで、幾人もの女たちがそれぞれに部屋を与えられ、帝に仕えていた。帝の深い寵愛を受けたこの女は、高い家柄の出身ではなく、自身の位も、女御より劣る更衣であった。女に与えられた部屋は桐壺という。
河出文庫『源氏物語 1 』第1帖「桐壺」より抜粋

普通の小説のようにさくさくと読めて、作品世界の中に入っていけます。

普通の現代語訳だったら、「女御、更衣あまた候ひ給ひける中、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」を、「女御や更衣といったお妃様がたくさんお仕えになっていらっしゃったなかに、最高の家柄ではなくて帝の深いご寵愛を受けていらっしゃる方がいました」というふうに訳しますね。

〈候ふ〉〈給ふ〉〈奉る〉などの語にしたがって、現代語まで〈いらっしゃる〉〈なさる〉〈さしあげる〉といった敬語のオンパレードになるので、読んでいてわけがわからなくなることが多いんです。でも角田さんの訳は、すっとわかる。ストーリーが一番入ってくる訳です。

「文法に忠実」であることよりも

角田:ありがとうございます。お叱りを受けなくてよかったです(笑)。

『源氏物語 1 』(河出書房新社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

山本:いえいえ(笑)。私も現代語訳をするんですけれども、私の訳をそのままテストの解答欄に書いてしまう高校生や受験生がいたら困るので、「これはテストには書かないでください」と言いながら、自分なりの意訳みたいなことをしています。

私は10年間、高校の教壇に立っていたんですけれども、テストの解答欄に書けること、つまり文法に忠実なことを教えていると、あちこちで生徒が眠ってしまうんですよね。「み・み・みる・みる・みれ・みよ(上一段活用)」なんて教えていると、スゥッと寝息が返ってくる。

それよりも「紫式部はお餅を食べていたんですよ」とかそういう話をすると、生徒の目が爛々と輝くんです。ですから「その昔、帝に深く愛されている女がいた」と言われると、みんな爛々と読めるだろうなと思います。ありがとうございます、この現代語訳を書いてくださって。

角田:あたたかいお言葉をありがとうございます。

「桐壺」を読む:愛されれば愛されるだけ増えた「その女」の気苦労

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