「いけない物語」との出会い
角田光代(以下、角田):昨日、初めて山本先生にお会いできました。うれしかったです。
山本淳子(以下、山本):私もずっとお会いしたかったので、本当にうれしく存じました。
角田:山本先生と『源氏物語』の出会いを聞きましたら、非常に面白いエピソードがあると伺ったので、ぜひそこから伺いたいと思います。
山本:私は小学校5年生のときに、『源氏物語』を子ども用のダイジェスト版で初めて読んだんです。これはいけない物語だと思いました。
その頃、ちょうど社会科の授業で日本史を習っていて、先生が何の気なしに「源氏物語を読んだことがある人はいますか?」というふうに聞かれたんですね。読んだことのある生徒は誰もいないだろうという前提のもとに先生は聞かれたのですけど、私は反射的に手を上げてしまいました。
先生の目と私の目が合った瞬間、「これはいかんぞ」という雰囲気が流れましたね。けれども、先生は手を上げた私を無視するわけにもいかず、「どんなお話でしたか?」と質問されてしまったんです。
先生を困らせてはいけないと思った私は、とっさに答えました。「光源氏という人がいて、光源氏にたくさん奥さんがいるというお話です」。それが私と『源氏物語』との出会いでありました。
角田:そのときから『源氏物語』に興味をおもちになったんですか?