
胸がしめつけられるほど悲しい昔話
さて、その暁(あかつき)、八の宮が勤行をするあいだに、中将はあの老女房を呼び出して対面する。この老女房は、姫君たちのお世話役として仕えていて、弁の君という者だった。年齢は六十に少し足らないくらいであるが、雅やかにたしなみのある様子で話をする。亡き権大納言(柏木(かしわぎ))がずっと思い悩んだために病にかかり、あっけなく亡くなってしまったいきさつを話し出して、いつまでも泣き続けている。中将は、「いかにも他人の身の上話として聞いていても、胸がしめつけられるほど悲しい昔話なのに、まして、ずっと長いあいだ気に掛かっていて、真相を知りたくて、いったいことの発端はなんだったのか、どうぞはっきりと教えてくださいと仏にも祈っていた、その験(しるし)だろうか、こうして夢のように胸打たれる昔話を、思いがけない機会に耳にできるなんて」と思うと、涙を止めることができない。
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