
故人が丹精込めて手入れしていた庭も
あの一条宮(いちじょうのみや)(落葉の宮(おちばのみや))にも、大将はつねにお見舞いの訪問をしている。
四月頃の空は、どことなく心地よさげで、緑一色の四方の木々もきれいに見渡せるが、悲嘆にくれるこの邸では、何ごとにつけてもひっそりと心細く、日々を暮らしかねている。そこへいつものように大将の君がやってきた。白砂を敷いた庭にも青々とした若草が一面に生えはじめ、ここかしこの敷砂が薄くなっている物陰には、我がもの顔に蓬(よもぎ)がはびこっている。故人が丹精込めて手入れしていた庭前(にわさき)も好き放題に茂り、ひと叢(むら)の薄(すすき)も勢いよく伸びて広がっている。虫の音が響く秋の頃を思うと、もの悲しい気持ちになり、大将は涙の露に濡れながら草を踏み分けて進む。喪中を示す伊予簾(いよす)を一面にかけ渡し、鈍色(にびいろ)の几帳の帷(とばり)も夏向きに更衣(ころもが)えして、そこに透けて見える人影がいかにも涼しげである。
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