山本:そうですね。その頃はもうたくさん図書館通いをして、毎日1冊読むくらいの本の虫になっていたので、有名な『源氏物語』ってどんなお話なのかなと思って、子ども用の200ページくらいのものをざっと読んだんですね。でもやっぱりわからなかったです、小学生の私には。
角田:古典として興味をもたれたのはいつくらいですか?
山本:高校生くらいのときには教科書に出てくるので必ず読みますけれども、『枕草子』の短い文章に表れているような清少納言のちゃきちゃきした人間像に比べて、『源氏物語』はべたっとして文章も長くて、ちょっと肌に合わないようなところがあったんです。
加えて紫式部は神格化されているといいますか、作家として大変な能力があって1000年も読まれ続けてきたということで権威化していました。ですから、高校生の私はその年代がよく抱きがちな反発心をもって、紫式部を毛嫌いしていたところが多少ありました。
けれども大学院に入って、『源氏物語』と紫式部について本格的につっこんだ研究をすることになったんですね。そのとき私はもう33歳だったんです。
普通の方は大学院には23歳でお入りになるんですけど、私は10年間、図書館や自治体、高校に勤めておりましたので、そうした大人としての問題意識を抱いたあとに『源氏物語』や紫式部の和歌を読むとまったく違ったものがありました。それからのめり込んでいきましたね。
最初は「嫌々ながら引き受けた」
山本:角田さんが現代語訳を始められたきっかけを伺ってもよろしいですか?
角田:実はですね、恥ずかしいことに、私は古典も『源氏物語』もまったく興味がなくてですね。
池澤夏樹さんが個人編集をなさる「日本文学全集」シリーズがあって、「古事記」から始まって名だたる古典の名作を現代の作家に訳させるという企画なんですけれども、河出書房新社の編集の方が会いに来たとき、「こういうラインナップになっています」と作品と訳者の組み合わせがもう決めてあったんですね。
自分の名前を見たら『源氏物語』と書いてあったので、どうしようかと内心慌ててしまいました。でも私は池澤夏樹さんの大ファンなので断るという選択肢がなくて、嫌々ながら引き受けたんですね。それが2013年だったんですけれども、そのときはまだ連載がいっぱいあって、すぐには取りかかれなかったんです。