そもそも、「マルチタスク」には無理がある。実際には、1つのタスクから別のタスクへと短時間に切り替えているだけであり、疲弊するのだ。
私自身、よくこの間違いを犯している。なにか作業をしている最中でも、受信したメールをチェックするために作業を中断してしまう。そうなれば気が散るし、時間を有効に使うこともできない。だから私はこの原稿を執筆中、メールの受信アラートやほかの通知をすべてオフにしていた。
1日のうちに片づけるタスクを2~3つ決める
午前中、あるいは1日のなかでいくつかのタスクをこなす必要があるのなら、厳密に時間を管理して、一度に1つの作業に集中しよう。そうすれば心身の健康にいいだけではなく、エネルギーと集中力を無駄遣いせずにすむので、最高のパフォーマンスを発揮できるだろう。
まず、1日のうちに片づけるタスクを2つか3つ決める。次に、それぞれのタスクに割り当てる時間を定める。慣れないと時間の予測は難しいので、次のルーティンを何度か繰り返して身につけよう。
①朝、起きたらすぐに、その日に片づける2つか3つのタスクを決める。タスクが少ないように思えるかもしれないが、1日に4つ以上のタスクでメンタル・セッティングの切り替えを続けていると、効率を落とすことになる。タスクは開始と終了が明確なものにしよう。
「本の執筆をする」といった漠然としたタスクではなく、「第2章のこの箇所を書きあげる」など具体的にするのだ。そうすれば実現が難しい目標を設定したあげく、タスクを完了できなかったと落ち込まずにすむ。
②2つか3つのタスクを決めたら、重要度や緊急度の高い順に優先順位をつける。その日のうちに絶対に片づけなければならないタスクがあって、それにだいぶ時間がかかる場合、その日はタスク1つに集中すべきだろう。とにかく、現実的に計画を立てること。自分に不要なプレッシャーをかけてはならない。
③それぞれのタスクを完了するのに必要な時間を設定する。最初のうちは、タスクをこなすのに要する時間を短く見積もりやすい。だが練習を重ねれば、「このタスクにはこのくらいの時間がかかる」と予測を立てやすくなる。
また、1つの活動から別の活動へと切り替えるにはエネルギーが必要となるため、次のタスクとのあいだに最低15分は休憩を入れる。隙間時間をつくれば、スムーズに意識を切り替えられるようになる。慣れてくればタスク切り替えの効率が上がり、1日の終わりに疲れきっていることも減るだろう。
休憩時間にはあらかじめ、ちょっと身体を動かしたり、メールをチェックしたりする時間を組み込んでおこう。
私は1日に150~200通のメールを受け取るので、受信箱にはいつも未読メールがあふれている。これを管理する方法は、朝と夜にそれぞれ1時間、緊急度の高いメールに優先して対応することだ。
「ジムに行きたい」「ジョギングやヨガをしたい」といった希望があるなら、そのための時間を前もってスケジュールに入れておく。これまでより1時間早く起きなければならないかもしれないが、かならず守ること。そうすれば、計画どおりに物事を片づける習慣が身につく。
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Elaine Fox
ダブリン大学、ヴィクトリア大学ウェリントン校などを経て、エセックス大学で欧州最大の心理学・脳科学センターを主催。その後、オックスフォード大学の感情神経科学センターを設立・指揮したほか、イギリス政府のメンバーとしてメンタルヘルス研究における国家戦略も担当した。現在はオーストラリアのアデレード大学で心理学部長を務め、認知心理学と神経科学、遺伝子学を組み合わせた先進的な研究を行う。またコンサルタント会社〈オックスフォード・エリート・パフォーマンス〉を経営し、トップアスリートやビジネスパーソンなどのメンタル・トレーニングの指導にもあたっている。著書に『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)。
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