「鍋から煙が…」憧れの仕事を辞めた彼女の気づき 「教員を休職→空白期間」経て選んだ新たな人生

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「保育園のお迎えがあるから、残業はできない。だから朝6時半には学校について、作業をしていたんです。それでも終わらないから、土日も出勤するようになりました。もともと土日まで働くのは好きじゃないんですけど、さすがに終わらなくて…」

慣れない人間関係、増える業務、体調を崩す子ども…疲れと、自分の子どもを犠牲にしている状態へのストレスから、異動して1カ月経つころには成田さんの心身は限界に達していた。

そして起きたのが、鍋の火をつけっぱなしにした事件である。

「ゆっくり料理する時間もないので、おかずは週末に作り置きして、帰宅後味噌汁だけちゃちゃっと作って、急いで保育園のお迎えに行ったんです。2、30分くらいして帰ってきたら、すっごい焦げ臭くて。見たら、味噌汁が全部蒸発していたんです」

実はその頃、成田さんはストレスからか物忘れが多くなっていた。長女に保育園に持たせなければいけないものを忘れることもよくあった。この時も、自分が火を止め忘れたのかどうかも、はっきりとは思い出せないような状態だったという。

「このままだと、いずれ火事や事故を起こしてしまうかもしれない…」

焦げ付いた鍋を前に、成田さんのなかで不安が膨らんでいった。

学校に足が向かなくなり、休職を決意

次の日の朝。目を覚ますと、すぐ横に長女の寝顔があった。いつもなら身を起こし、支度を始める。だが、この日は違った。静かに寝息を立てる顔を眺めていると、「学校に行かなくていいかな」という考えが浮かんできたのだ。

今日は、子どもが起きるまで寝ていようーーそうして、成田さんは仕事を休むことにした。最初は1日だけのつもりだったが、欠勤は1日、2日、3日…と続いた。

「他の先生にも生徒にも迷惑をかけてるから『戻らなきゃ』って焦りもありました。今戻れば、ちゃんと教員をやっている“普通の自分”に戻れるんだから、明日は行かなきゃ、と」

だが朝になると、どうしても学校に行く気が湧いてこない。気がつくと、休み始めてから1週間が経っていた。はじめはうしろめたさを感じていた成田さんも、戻りづらさのほうが勝るようになっていった。なにしろ、休めば休むほど業務は溜まっていくのだ。

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