夏音さんは幼い頃から子ども扱いされるのが大嫌いだった。姉もいるため、同年代の子と比べると少しませている部分もある。そんな夏音さんにとって、プロを目指す厳しいスポーツの練習は、子どもだからと妥協を許されない雰囲気が好きだった。
“私は絶対に一流のプレーヤーになってみせる!そのために、有名チームもあるアメリカやカナダに留学できる学校に入ろう”
先輩女子プレーヤーとの交流で生まれたみなぎる感情は、彼女の夢へと変わっていった。
「そうかぁ、それなら、お父さんも応援するよ!」
いつも練習に付き合っている父・真一郎さん(40代、仮名)は三女の意思を尊重、後押しを約束してくれた。
母親の香奈さん(40代、仮名)も、本人の希望ならばと、拒むことはしなかった。だが、積極的に中学受験の伴走ができるほどのゆとりはなかった。香奈さんはスタッフを複数抱える事業所を経営している。専業主婦ではないため、受験に向けての家庭学習に付き合うことは難しい。勉強だけではない。中学受験をする家庭の中には20校以上も見学するという強者もいるが、学校選びを入念に行うだけの時間のゆとりもない。これは夏音さんの姉、次女の受験の時も同じだった。
「ママは沢山のことはしてあげられない。自宅学習はプリント管理も含めて自分でやることになるよ。それでも、挑戦したい?」
「大丈夫。自分でやる!」
こうして5年生の3学期、夏音さんは入塾した。
遅めのスタートからの転塾劇
5年生の3学期ともなれば、すでに塾の中学受験コースはかなり進んでいる。受験をするなら、今からでも勉強が間に合う学校に絞って考えるしかないだろうということは想像がついていた。
入塾したのは自宅近くにあった栄光ゼミナール。20人ほどの集団クラスで授業は進んだ。
塾の薦めで初めて受けた模試は、首都圏模試センターが実施する通称“首都模試”だ。この模試はサピックスなどに通う難関校狙いの生徒は受けない場合もある模試だが、個人塾に通う子をはじめ、幅広い層の受験者がいるのが特徴だ。模試によっては偏差値40台の学校は名前すら出てこないことがあるが、首都模試は偏差値帯が下のほうの層の学校まで見ることができる。
受験勉強を始めたばかりの夏音さんの成績は、予想通り低いもので、偏差値は26。中学受験の世界を知らない人からすれば、こんな偏差値があるのかと驚く人もいるだろうが、受験勉強を始めたての子が取る偏差値としては驚く数字ではない。中学受験の問題は小学校の勉強とは異なるため、最初はできなくて当たり前だ。
次女の受験を経験している大山家も、さほど驚くことはなかった。ただし、時間がない。効率的な方法を考える必要があった。実は次女の受験の時にも同じような状況だった。始めたのも遅ければ偏差値もさほど高くなかった。
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