今年も中学受験のシーズンが近づいてきた。首都圏、特に23区に住んでいると、中学受験と完全に無縁という親子のほうが珍しいかもしれない。ところが毎年聞かれるのは「御三家」など上位校にすんなり合格した“秀才”たちの成功談ばかり。第一志望校に受かるのは4人に1人とも言われる過酷な現実とは、大きなギャップがある。
中学受験に挑むどうかは家庭により価値観の分かれるところで、その是非についてはこの連載では取り上げない。ただもし、自分の家庭が「やる」と決めた場合には“現実”、それも”スムーズにはいかなかったケース”を知っておくことは、決して無駄ではないだろう。中学受験が、その後の子どもの人生と親子関係に大きな影響を与えることがあると考えるからだ。
「偏差値」や「合否」という圧倒的な事実を前にかき消されがちな、中学受験をめぐる親と子の軌跡。この連載ではなかなか語られない「中学受験のリアル」について、経験者たちに取材し、リポートしていく。
都内にある中堅の私立男子校に通う、中学2年生の中村伸也君(14歳、仮名)。学ランに身を包み、日々学校に通う彼の表情は明るい。休日に自宅マンションに遊びに来る親しい友人もでき、学校生活を謳歌している。母親の順子さん(40代、仮名)は、自宅に来た息子の友人たちと一緒に語り合う日もあるという。
絵に描いたような幸せな母子の風景だが、小学校の頃はまさかそんな日々が来るとは想像もできなかったと順子さんは言う。
小学校3年以降、順子さん家族が体験していたのは「中学受験戦争」。それも真っ暗闇に近い――。
まさか息子が中学受験を希望しているとは
中学受験スタートの号砲は、ある日突然に鳴った。
伸也君が小3の年末、塾からかかってきた1本の電話。「息子さん、中学受験を希望されています」。母親の順子さんには寝耳に水だった。息子からは一言も聞いたことがない。「息子さんの意思ですし、一度、お話に来ませんか?」と言う塾に押し切られるように、愛息の受験勉強生活はスタートした。
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