27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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「副社長の言葉は事業再構築だが、その狙いが人員整理にあることは間違いない」

三島は難しい顔をして腕組みした。

「業績が振るわない今、ランニングコストを下げる意味も含めてリストラを主張されたら、論理的には反論しにくいからな」

先代社長に恩義を感じる役員は石田三成のよう

「でもあの星さんが、社員を守るために無理を承知で副社長に反対するなんて意外ですね」

みやびはそう言って、星の冷たい横顔を思い出した。常日頃、論理的で冷徹な印象が星にはある。その物言いで無用の反発を起こしたことは枚挙にいとまがない。星の部下だったころは、その軋轢によって生じる社内調整に苦労したものだった。

「率先してリストラを主張しそうな人じゃないですか」

「星さんにとって先代の教えは絶対だからな」

「先代?」

「先代は星さんを我が子のように可愛がっていてね。星さんが高専に通っていたころに、その学校の特別講師として年に何回か先代が講義をしていたらしい。そこで星さんを気に入ってうちに入社させたんだ。だが、ゲームプログラマーとしての才能はなかったようでね。星さんは自信を失って退職しようとしたんだが、先代はゲームプログラマーでなくとも会社に貢献できると星さんを説得して、経営を勉強させるために自費で星さんを大学に入れたそうだ。そして、星さんを経営企画室に異動させ、経営の分野で会社に貢献させることにしたんだ」

みやびは司馬山の顔を思い浮かべた。確かに司馬山らしいエピソードだ。司馬山は社員全員の父親のようなところがあった。結果に厳しい面はあったが、部下が失敗したら必ずリベンジの機会を与えてサポートもし、成功体験を与える。この司馬山のマネジメントが、グローリーゲームスが他社に比較して圧倒的に少人数ながら、その規模をはるかに超える成功をおさめてきた原動力とも言える。

「星さんにとって、先代は親以上の存在なんだろうな。先代の在任中は、率先して会社のために嫌な役割を引き受けていた。先代が言いたくても言えないことがあるときに、星さんがあえて憎まれ役を買って出たところもある。今、副社長がやろうとしていることは、ある意味、先代の否定だからな。先代が大事にしてきた社員が辞めさせられてグローリーゲームスが復活しても、星さんにとっては意味のないことだろう」

有能でも実直すぎると人望を失うことも

三島はそう言って、ため息をついた。

「まぁ、それは星さんだけでなく社員全員、そう思っているだろうがな」

「だったら、みんなもう少し星さんに同調してもいいんじゃないですかね?」

みやびは役員会での様子を思い出して言った。

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