ウユニ塩湖で人生変わった彼女は東京で夢破れた 小説集「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」一部公開

✎ 1 ✎ 2
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
ウユニ塩湖
同級生で地主の娘に嫉妬した女性が悟ったことは?(写真:リュウタ/PIXTA)
ツイッターで小説を投稿する匿名アカウント・麻布競馬場さんは、今SNSで最も注目されている人物の一人です。タワマン、港区、商社マン、上京……などを扱った麻布さんの小説は、「Twitter文学」とも呼ばれ、毎回爆発的にバズっています。
そんな麻布さんのツイートから傑作を集めたデビュー小説集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』。今回、集英社とのコラボにより、書籍に収録されている「ウユニ塩湖で人生変わった(笑)」という短編を、全文公開します。かつての同級生の影響を受けてウユニ塩湖に行った女性の物語です。

ウユニ塩湖で人生変わった(笑)

昔、ウユニ塩湖に行ったんですよ。高校のとき「ウユニ塩湖行ったら人生変わった」って、クラスの子が冬休み明け、興奮気味に言ってて、それで、バイト代こつこつ貯めて、どうにか辿り着いたウユニ塩湖は、大きな水たまりみたいで、2分も経たずに飽きちゃったんです。人生は、何も変わらないままです。

雨が降ると草と土の匂いがして、家の隣の大きな空き地に、大きな汚い水たまりができました。いつまで経っても家どころか駐車場にもならないその空き地は、この街の未来を象徴しているようでした。かといって、高卒の父と母はいつも満足げで、この街から出る方法を私に教えてはくれませんでした。

特に荒れてもない公立小中から特に偏差値も良くない公立高へ。美咲ちゃんとはそこで知り合いました。彼女はこのあたりの地主の娘でした。お母さん似で、リスみたいなかわいらしい顔をしていました。田舎の金持ちといえば医者か地主で、勉強ができないと跡を継げない前者と違って、彼女には生まれながらにして、そこそこ楽でそこそこ幸せな人生が約束されていました。

美咲ちゃんがウユニ塩湖に行ったのは高校1年の冬休みで、BSの番組か何かでそれを見たお父さんが嫌がるお母さんと美咲ちゃんを無理やり連れて行ったのだそうです。結果、美咲ちゃんは「人生が変わった」のだそうです。湖の前で『ワンピース』みたいに片腕を突き上げた写真を、彼女は私に何度も見せてきました。

次ページ彼女はAO入試に向けて自己推薦書を書き始めた
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事