蚊を叩き潰して血を見た人が知らないドラマ

彼女は子どものために命懸けで侵入してきた

人間にとってうっとうしい存在だが、蚊にも蚊なりの事情がある(イラスト:yoshi / PIXTA)
生き物たちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。老体に鞭打って花の蜜を集めるミツバチ、成虫としては1時間しか生きられないカゲロウなど生きものたちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま』(草思社)から、アカイエカ(蚊)の章を抜粋して掲載します。

ハリウッド映画級のハードなミッション

彼女に与えられたミッションはこうだ。

何重にも張り巡らされた防御網を突破して、敵の隠れ家の奥深くに侵入する。そして、敵に気づかれないように、巨大な敵の体内の目標物を奪う。もちろん、それで終わりではない。そこからさらに防御網をかいくぐって見事に脱出し、無事に帰還しなければならないのだ。

こんなハードなミッションを成し遂げるヒロインを主人公にすれば、ハリウッド映画顔負けの大作となること間違いないだろう。

このヒロインこそが、私たちの血を吸いにやってくるメスの蚊である。

蚊はメスだけが血を吸うのである。

蚊はメスもオスも、普段は花の蜜や植物の汁を吸って暮らしている。実に穏やかな昆虫なのだ。

ところが、あるときメスの蚊は吸血鬼となる。

メスの蚊は卵の栄養分として、タンパク質を必要とする。しかし、植物の汁だけでは十分なタンパク質を得られない。そのため、動物や人間の血を吸わなければならないのである。憎たらしい吸血鬼も、その正体は、わが子のために命を懸けるいちずな母親の姿だったのである。

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