蚊を叩き潰して血を見た人が知らないドラマ 彼女は子どものために命懸けで侵入してきた

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もし、この唾液を注入しなければ、血液は蚊の体の中で固まってしまい、蚊は血を吸ったまま死んでしまうのだ。

まさに命懸けのミッションである。

血を吸う作業は、どんなに急いでも2~3分はかかる。メスの蚊にとっては、とてつもなく長い時間に感じられることだろう。

昔の泥棒で言えば、家人に気がつかれないように、金庫のダイヤルを回しているときのような心境だろうか。スパイ映画に例えれば、敵のアジトに侵入し、ホストコンピューターにログインしてデータを抜き取るときのようなスリルだろうか。

気づかれないように……さあ、もう少し……もう少しだ。

血を吸い終わった後に待つ最大のミッション

何とか血を吸い終わったとしても、ミッションは終わりではない。本当に大変なのは、ここからである。

蚊の幼虫であるボウフラは水中で生活する。そのため、メスの蚊は、水の上に産卵しなければならないのである。しかも、水道水のようなきれいな水ではボウフラが育つための栄養分がない。有機物があり、ボウフラの餌になるようなプランクトンが湧いている汚い水でなければならないのだ。

メスの蚊は、自らが水を吸ってボウフラが成長するのに適した水かどうかを確かめてから産卵する。しかし、そのような場所は清潔な家の中にはない。そこで今度は、産卵のために、家の外へと脱出しなければならないのである。

この物語の主人公である彼女も、血を無事に吸い終わったようだ。

しかし、ここからがいよいよ物語の後半である。彼女は見事脱出に成功し、産卵をするという生物にとって最も重要なミッションを成し遂げることができるだろうか。

何しろ、家に侵入することも難しいが、そこから脱出するのはさらに難しい。

家に侵入するときには、偶然に網戸の隙間を見つけたかもしれないが、再び、同じ隙間にたどり着ける確率はゼロに近い。そうだとすれば、新たな場所を見つけなければならないのだ。

もちろん、現代の家は機密性が高い。そんなに簡単に脱出できる場所が見つかるようにはとても思えない。

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