蚊を叩き潰して血を見た人が知らないドラマ 彼女は子どものために命懸けで侵入してきた

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それでは、オスの蚊はどうだろう。

卵を産まないオスの蚊は危険を冒して、人間や動物の血を吸う必要はない。

家の外では、無数のオスの蚊が集まって飛びながら、蚊柱を作っている。オスの蚊は集団で羽音を立ててメスの蚊を呼び寄せ、蚊柱にやってきたメスの蚊はその中からパートナーを選び、交尾をするのである。そして交尾を終えたメスの蚊は決死の覚悟で家の中へと向かっていくのである。

蚊の一生は短い。

古いバケツや空き缶などにたまったわずかな水があれば、蚊は産卵できる。メスが水面に産みつけた卵は、数日で孵化(ふか)した後、1~2週間という短い間に成長して成虫となる。わずかな水が干上がるまでの間に、蚊は飛び立つことができるのである。

そして、メスの蚊は人間や動物の血を吸って卵を産む。これを繰り返しながら、蚊の成虫は運がよければ1カ月程度生きる。

蚊は、1年間の間に、この短いサイクルを繰り返して世代を更新していくのだ。

私たちの身の回りにいる蚊は、主に茶褐色のアカイエカと白黒模様のヒトスジシマカである。ヒトスジシマカは庭の藪(やぶ)などによく潜んでいて、別名を「やぶ蚊」と言う。一方、アカイエカは「赤家蚊」の名前のとおり、果敢に家の中に侵入してくるのである。

何重にも張り巡らされた防御網に挑むアカイエカ

人間の血を吸う蚊は、何とも嫌な害虫だが、蚊の気持ちになってみるとどうだろう。しかも、わが子のために決死の覚悟で人間の家に侵入する蚊の立場である。

まず、家の中に侵入するというのが、そうとうに困難を極める。

開けっ放しだった昔と違って、機密性の高い現代の家では侵入経路が限られる。家の網戸をかいくぐるか、人間がドアや窓を開閉したのと同時に侵入するくらいだろうか。

何とか家の中に侵入できたとしても、蚊取り線香や虫よけ剤の罠が待ち受けている。人間にとっては何でもないが、小さな蚊にとっては、命を奪う強烈な毒ガスである。

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