蚊を叩き潰して血を見た人が知らないドラマ 彼女は子どものために命懸けで侵入してきた

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部屋にたどり着いてからが、さらに大変だ。

まず、ターゲットとなる人間を見つけなければならない。蚊は人間の体温や吐く息から人間の存在を感知する。ここからが大仕事である。

人間がうたた寝でもしていてくれればいいが、そうでなければ、気づかれないように人間に近づかなければならない。もし、飛んでいるところを見つかれば、両手でピシャリと打たれて、一巻の終わりだ。

そして、そっと人間の肌に着地し、血を抜き取らなければならないのだ。もちろん、すべての作業を誰にも気づかれることなく完了させなければ、命がない。

危険に危険を重ねる吸血作業

血を吸うために特殊な進化を遂げた蚊にとっても、血を吸う作業は、けっして簡単なことではない。

肌に着地するだけでも相当に危険なのに、さらに肌に針を突き刺さなければならないのだ。もちろん、姿は丸見えで隠れる場所はない。

何とかターゲットの肌に着地した1匹の蚊が、気づかれないように、ターゲットの腕に針のような口を挿し込んだ。蚊の口は1本の針のようになっていると思われているが、実際には、6本の針が仕込まれている。

彼女が最初に使うのは、6本のうちの2本の針である。この針の先端にはのこぎりのようなギザギザした刃がついている。昔、忍者が建物に侵入する際に「しころ」という小さなのこぎりを使ったというが、ちょうど、そのような感じだろうか。そういえば、忍者の世界にも「くノ一」という女性の忍者がいたらしい。

彼女は、2本の針についた刃をメスのように使って人間の肌を切り裂いていく。もちろん、気づかれないように、である。

別の2本は、肌が開いた状態で固定させるためのものである。人間の手術では、開口部を「開創(かいそう)器」という器具で固定するが、ちょうど、そんな感じだ。

そして、開かれた口に残りの2本の針を挿し込んでいく。

このうち1本は血を吸うためのものだが、もう1本は唾液(だえき)を血管の中に注入していく。この唾液の中には、麻酔成分が含まれていて、肌を切り開いた痛みを感じにくいようになっている。さらに、麻酔成分には血液の凝固を防ぐ役割もある。

次ページこの唾液を注入しなければ…
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