ウユニ塩湖で人生変わった彼女は東京で夢破れた 小説集「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」一部公開

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次第に、彼女のツイートを見るのがつらくなってミュートして、でもひどく酔っ払った日、それが結局は彼女に対する嫉妬であると気づいて大泣きしてしまい、その場でウユニ塩湖ツアーをネット予約しました。彼女がそうであったように、私の人生もあの湖の光景によって変わるのではないかと期待したのです。

安い飛行機を乗り継いで、安い宿のかまぼこ板みたいなベッドに泊まって、どうにか辿り着いたウユニ塩湖はとても美しくて、でも、それだけで、『ワンピース』の真似事をして写真を撮っている、卒業旅行で来たらしい日本人大学生の集団が視界の隅に入って、2分もすれば、帰り道も大変だな、と、どうでもいいことを考えていました。

地元に帰っても人生が変わる様子はなく、退屈から退屈へとムーヴを転がすだけの日々が戻ってきました。しかし私の人生観は変わったと言えます。すがすがしい諦めというか、美咲ちゃんみたいな人を見て、空から降ってくる何かが私の人生を変えてくれるなんていう要らぬ期待を抱かないようになったのです。

美咲ちゃんが書いた立派なnote

なんてすばらしい日常の喜び! めざまし占いの順位に喜び、たまに朝ごはんにセールのシャウエッセンが出ることを喜び、ガソスタの景品で鼻セレブが貰えたことを喜び、バイト先の居酒屋で酔ったおじさんに綾瀬はるかに似ていると言われたことを喜ぶ。ハウス栽培のいちごのような輝かしい日常。

美咲ちゃんの日常も変わったようでした。「原体験に深く向き合った」と、伸び悩んだYouTubeを諦めて、代わりにオンライン旅行代理店なるものを起業しました。「私はあのウユニ塩湖への旅のおかげで本当の私になれた」「あの旅がなかったら、私は何もない田舎でなんとなく暮らしていただけだったかも」。草の匂いも土の匂いもしない、立派なnoteを書きました。その立派なnoteに書かれた明るい未来は、残念なことにコロナで吹き飛びました。美咲ちゃんはまたYouTubeに戻ってきて、サウナ水着回みたいなのが増えました。

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