ウユニ塩湖で人生変わった彼女は東京で夢破れた 小説集「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」一部公開
でも少ししたら熱も冷めたらしく、彼女はもうウユニ塩湖の話はせず、松坂桃李のドラマの話ばかりする元の彼女に戻ったようでした。その熱が再発したのは大学受験直前期でした。「ウユニ塩湖で人生変わった」。そんな景気のいい自己推薦書を、彼女は慶應SFCのAO入試に向けて書き始めたのです。
お父さんも早々に旅行に飽き、使い道を失ったお金を、娘のAO入試対策塾に突っ込むことにしたようでした。彼女は週末になると東京のその塾に通い、面接練習なんかを繰り返していたようでした。重課金の甲斐あってか彼女は見事に合格。「#春からSFC」とTwitterで何度も誇らしげに投稿して、この街の外に友達を作ろうとしていました。
それがウユニ塩湖のおかげだったのか、あるいはそもそも、彼女のひいおじいちゃんが戦後のドサクサで大量に手に入れたと噂されていた土地が生むお金のおかげだったのかは分かりませんが、何にせよ彼女の運命は、この街の他の人たちよりは明らかに「変わった」ようでした。私は地元の適当な私立大に進んで、この退屈な田舎町みたいな平らな畦道をムーヴで走っていました。
頭のおかしくなるような日常の繰り返し
ループものかと思うほどの日々の繰り返し。お母さんが作る目玉焼きとソーセージとお味噌汁の朝ごはんを食べて、ムーヴで大学に行って、授業を受けて、ムーヴでバイト先の居酒屋に行って、ビールや唐揚げを運んで、ムーヴで家に帰る。繰り返し。お味噌汁の具が変わるだけの、頭がおかしくなるような日常の繰り返し。
地元の友達がお金配りおじさんのリツイートばかりする中、美咲ちゃんのツイートだけが異質でした。「現役女子大生ミサキの全部見てやろう」。YouTubeやnoteを横断した彼女の私生活の切り売りを見る限り、彼女はせっかく受かった大学にロクに通わず、お父さんのお金で海外旅行にばかり行っているようでした。
しかしそれでも、彼女の生活は十分に幸せで、成功したものに見えました。You Tubeは登録者3万人。コメント欄を見る限り、相変わらずリスみたいなかわいい顔や女子大生ブランドに惹かれて寄ってきた、冴えない中年がその数字を支えているようでした。それでもすごい数字です。3万人の勃起したおじさんが立ち並ぶ光景を想像しました。