会議終了後、みやびとともに社長室に戻ってきた三島はぐったりした様子で自席に座ると、前に立つみやびに嘆いた。今年、42歳になる三島は、財務を統括する本前常務の推薦でグローリーゲームスのメインバンクである、いなほ銀行から5年前に転職してきた。小太りで頭髪は年齢の割にかなり薄くなっている。
ふちの太い眼鏡をかけ、いかにも真面目そうだが、意外につぶらな瞳と、いかにも小心者らしいオドオドした感じがなんとなく小動物を思い起こさせる。星のような切れ者感はまったくなく、どちらかというと調和を重んじ自分の意見はあまり言わないタイプだ。威圧感のある多々良の前では、いつでもかろうじて呼吸をしているという感じである。
「いよいよ本格的に始まるな」
「なにがです?」
みやびは、三島に尋ねた。彼女の特徴である大きな瞳がくるくるとよく動き、小鼻がふくらむ。みやびが好奇心を発揮した時のクセである。
Twitter社のような大規模リストラの可能性も…
「なにが始まるんですか?」
みやびは重ねて三島に尋ねた。
「リストラだよ」
「リストラ?」
「フェニックスの話は知らないか?」
「知らないです」
みやびは首を振った。
「フェニックスの立て直しの時は、プロパー社員の3分の1をリストラしたらしい」
「3分の1!?」
みやびは思わず大声をあげた。その声に社長室のメンバーが驚いて、みやびと三島のほうを見た。三島は慌てて自分の唇に手を当てながら、みやびを制した。
「大きな声出さないで」
「すみません……」
「フェニックスも最初は不採算事業から徹底的な撤退をし、大規模なリストラをした。そして多々良さんの息のかかったメンバーが一気に加入し、プロジェクトを立ち上げていったらしい」
「それって、まるで乗っ取りじゃないですか?」
フェニックスの劇的な復活劇はゲーム業界では有名だ。かなり強引な手法であったことも噂されていたが、3分の1も社員が入れ替わったら、もう元の会社ではないのではないか。
「ベガの時もサターンのメンバーを大量に引き抜いていったらしいから、今回も同じようなことがあるかもしれん」
「でもうちは先代のころから、どんなに苦しい時でもリストラはしない方針だったんじゃないですか」
みやびの言う通り、グローリーゲームスは司馬山の強い信念で、どんなに苦しい時でもリストラはしなかった。もちろん退社する人間はいたが、いずれも本人の意思であり、司馬山はそのたびに快く送り出していた。これは派遣のプログラマーやエンジニアにも言えることで、そのことがグローリーゲームスの業界内での信頼にも結びついていた。
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